大阪大学は、固定/染色などの工程なしに、生きた組織のまま大腸の深部まで観察し、大腸がんをリアルタイムに診断できる方法を開発した。従来の方法よりも低侵襲かつ定量的に、正常の大腸組織や大腸がんの組織を診断することが可能になる。
大阪大学は2017年7月31日、固定や染色などの工程なしに、生きた組織のまま大腸の深部まで観察し、大腸がんをリアルタイムに診断できる方法を開発したと発表した。同大学大学院 医学系研究科 特任助教の松井崇浩氏、教授の石井優氏、教授の森正樹氏らの研究グループによるもので、成果は同日、英科学誌「Scientific Reports」で公開された。
現在がん診断には、がんが疑われる部位から組織片を採取し(生検や手術)、ホルマリンなどで化学処理を行い(固定)、薄く切ってガラスに貼り付け(薄切り)、色付けをして(染色)からガラス標本を作製し、顕微鏡で観察する必要がある。これは侵襲的処置であり、まれに患者に不利益な合併症が生じる可能性がある。また、工程が多く、診断までに時間がかかることが課題となっていた。
同研究では、近赤外線を当てるだけで生体組織の深部(表面から約120μm)の蛍光を検知し、組織の深い部位を傷つけることなく可視化する「多光子励起イメージング技術」を活用。固定や薄切り、染色といったがん診断のための処理工程を行うことなく、生きた組織のままヒト大腸組織の深部を表面からリアルタイムに観察できる方法を開発した。
具体的には、生体組織内に元来見られる蛍光シグナル(自家蛍光)と、多光子励起イメージング技術で観察できる第2高調波発生による蛍光シグナルを利用して可視化する。第2高調波発生とは、光が非線形光学結晶やコラーゲン線維と相互作用することで、励起光の2倍の周波数の光を発生させる現象のことだ。
この方法で撮影した画像は、従来のガラス標本による顕微鏡の画像と同様に、大腸組織の特徴を詳細に描出できる。さらに、撮影画像の特徴を数値で表すことができ、その数値を利用して撮影画像をがんと非がんに定量的に分類できることも分かった。
今回開発した方法を用いることで、従来の方法よりも低侵襲かつ定量的に、正常の大腸組織や大腸がんの組織を診断することが可能になる。今後、同技術を内視鏡などの医療機器へ応用すれば、低侵襲で迅速ながん診断の他、早期がんの診断、内視鏡治療などでの精度向上が期待できるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.