クボタはIoT活用で農家の「所得倍増」に貢献する製造業×IoT キーマンインタビュー(2/4 ページ)

» 2017年08月10日 11時00分 公開
[朴尚洙MONOist]

「KSAS」によるPDCA型農業へ

MONOist スマート農業は、競合の農機メーカーも取り組みを進めています。KSASの最大の特徴はどんなところになるでしょう。

農業を革新する「KSAS」 農業を革新する「KSAS」(クリックで拡大) 出典:クボタ

飯田氏 KSASは、農機とICTを利用して作業・作物情報を収集して活用する「もうかるPDCA型農業」の実現を目指している。特に重視しているのが作物情報に当たる「収量」と「食味」になるだろう。

 稲作で用いるコンバインに、モミ量重量と乾燥重量を測定できる収量センサー、食味につながるタンパク値と水分値を測定できる食味センサーを搭載した。これらのセンサー情報によって、圃場1枚(面積で約0.1ha)ごとに、収量、タンパク、水分のばらつきを把握できる。

 担い手農家は規模を拡大しており、耕地面積で20h〜40haの農家が増えている。100枚以上の圃場を持つとなると、従来の方法では圃場全ての質を把握することは難しい。このコンバインを使えば、圃場1枚ごとの状態を管理できるので、よりおいしい米をより多く収穫できるような施肥設計を各圃場の状態に合わせて行えるようになる。さらに、KSAS対応の農機を使えば、熟練の作業でなくても施肥設計通りの施肥が可能になる。

 おいしい米のタンパク値は6%前後といわれている。また、圃場1枚からは9俵(約540kg)以上の米を収穫したい。圃場の情報に基づく施肥設計と、設計通りの施肥の実施により狙い通りのタンパク値や収量を実現できるようになる。例えば、ある農家では、1ha当たりの収量が、5.1トンから5.8トン、5.9トンと増加し、おいしさも向上するという効果が得られた。

 また米のおいしさについては、従来の米の収穫から乾燥のプロセスにも課題がある。圃場1枚から500kg収穫したとして、その後の乾燥機での処理は4トン程度をまとめて行うのが一般的だ。これでは、質の良いものも悪いものも混ぜこぜになるし、米の評価としては質の悪い方に合わされてしまう。コンバインの食味センサーでタンパク値を管理して、タンパク値ごとに分けて乾燥を行えば、質の良い米としての評価を受けて出荷できる。実際に、最近のブランド米でも実施している手法だ。

 かつては勘と大くくりのデータだけが頼りだったが、KSASによって詳細なデータに基づく農業、PDCA型農業が可能になる。

MONOist KSASの導入はどのように進めていますか。

飯田氏 最初に述べた通り、これまでのクボタは製品供給型企業であり、KSASのようなシステムを直接ユーザーに届けるのは今回が初めてだ。そこで、KSASの先行研究プロジェクトと連携する形で、2014年6月からKSASの事業運営部門を社内に立ち上げた。

 この事業運営部門では、地域密着、現場主義でKSASの普及促進に努めている。KSASをきっかけに、60歳過ぎの農家の“おやじさん”から、30〜40歳代の後継者に受け継いでいけるようにしていきたい。農業という、これまではITがなじまなかった現場にKSASを普及していくことは大きな挑戦でもある。

 大手の担い手農家であれば、トラクター5台、コンバイン2台、田植え機2台などの農機をそろえている。KSASでは、まずは対応のコンバインを導入してもらいたいと考えている。KSAS対応のコンバインは5〜6条刈と大型だったが、このほど4条刈を追加してラインアップ拡充した。

 現在(2017年5月末時点)のKSASの加入者数は4000弱で、このうちKSAS対応農機を活用する本格コースは約1400になる。また圃場の登録数は20万枚にのぼる。

MONOist KSASの今後の展開は。

飯田氏 稲作と一体化した営農管理をさらに進めたい。2017年4月には農薬散布機能付きドローンとの連携への取り組みを開始し、KSASに対応する乾燥機も発売した。また、稲作だけでなく、畑作、野菜作にもKSASを広げていく。

 さらに次の段階として、日本型精密農業の研究開発を進めている。気象情報+センサーなどからの予測技術が重要で、病害虫や水管理の問題が起きたら即座に対処できるようにしたい。これらの問題は、起こってから対処を検討していては手遅れになるからだ。

 AIの活用も重要だ。高度営農管理支援システムとして、計画営農にAIを使う。流通からの情報も入れ込んで、その上で農家に何をやってもらえるかを考えていきたい。

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