東京医科歯科大学は、成長期におけるそしゃく刺激の低下が記憶をつかさどる海馬の神経細胞に変化をもたらし、記憶・学習機能障害を引き起こすことをマウスモデルで示した。
東京医科歯科大学は2017年6月16日、成長期のそしゃく刺激の低下が記憶をつかさどる海馬の神経細胞に変化をもたらし、記憶・学習機能障害を引き起こすことをマウスモデルで示したと発表した。同大学大学院 医歯学総合研究科 教授の中島友紀氏らの研究グループが、神戸大学大学院 医学研究科 教授の和氣弘明氏と共同で行ったもので、成果は同日、国際科学誌「Journal of Dental Research」電子版で発表された。
成長期にそしゃく回数が低下すると、顎の骨やかむための筋肉だけでなく、脳の発達にも悪影響を及ぼす。また、加齢により歯を失うことでそしゃく機能が低下し、認知症のリスクが高まることも分かってきた。しかし、そしゃく機能と高次脳機能の関係には不明な点が多く、それらの分子メカニズムの解明が重要となっている。
同研究では、離乳期から成長期にかけて粉末飼料を与え、そしゃく刺激を低下させたマウスモデルを解析した。その結果、粉末飼料を与えたマウスでは、通常の固形飼料を与えたマウスに比べて、顎顔面の骨や、かむための筋肉の成長が抑制され、記憶・学習機能も障害された。
実験ではまず、明箱から暗箱に入ったマウスに電気ショックを与え、恐怖を学習させた。固形食のマウスはその後、暗箱に入るのをちゅうちょしたが、粉末食のマウスは記憶力が低下して恐怖を忘れてしまい、通常より早く暗箱に入った。次に、海馬を解析したところ、それらのマウスでは神経活動やシナプス形成、脳由来神経栄養因子の発現が低下し、神経細胞が減少していることが明らかになった。
これらの成果から、成長期にそしゃく刺激が低下すると、顎の骨やそしゃく筋の成長を抑制し、海馬をはじめとする脳神経系の発達を妨げ、記憶・学習機能を障害する可能性が示された。同成果は、記憶・学習機能障害や認知症の予防において、そしゃく機能の維持や強化が有効であることを示唆している。
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