富山大学は、ささいな出来事でも、その前後に強烈な体験をした場合、長く記憶される仕組みを解明した。それぞれの記憶を思い出す時に活動する神経細胞が重複することで、行動タグが成立することが分かった。
富山大学は2016年8月1日、通常ならすぐに忘れてしまうささいな出来事でも、その前後に強烈な体験をした場合、長く記憶される仕組みを解明したと発表した。同大学大学院医学薬学研究部(医学)の井ノ口馨教授らと、東京慈恵会医科大学痛み脳科学センターの加藤総夫教授らの共同研究によるもので、成果は同日、英科学誌「Nature Communications」に掲載された。
記憶は、経験時に活動した特定の神経細胞集団(記憶エングラム)として符号化され、それが再び活動すると、その記憶が思い出される。強烈な体験をすると、その前後のささいな出来事も一緒に長期記憶として保存される(行動タグ)が、これまで行動タグ成立の仕組みについては明らかにされていなかった。
同研究グループは、マウスを用いて、ささいな出来事としての新奇物体認識課題(NOR)と、強烈な体験としての新規環境暴露(NCE)という2つの体験の間で、行動タグが成立する仕組みを調べた。まず、ささいな出来事だけを体験させたところ、NORの学習から30分後は物体を記憶していたが、24時間後には物体を忘れていた。次に、ささいな出来事の前後に強烈な体験をさせたところ、NORの学習を行う前後1時間以内にNCEを行った場合、マウスは24時間後のテストでも物体を記憶しており、行動タグが成立することが分かった。
さらに、行動タグが成立する際に、NORとNCEに応答して活動した神経細胞(NORエングラム/NCEエングラム)をcatFISH法によって特定した。その結果、行動タグ成立時には、成立しない場合に比べてNORエングラムとNCEエングラム間の重複率が増大した。このことから、2つの記憶エングラムが重なることで、行動タグが成立することが示唆された。
これらの結果は、ささいな出来事と強烈な体験の記憶エングラムが重複することで行動タグが成立することを、神経回路レベルで示したものとなる。同成果は、トラウマ記憶と関連性が薄いニュートラルな他の記憶(状況)との間で、不必要な結び付きが起きるPTSD(心的外傷後ストレス障害)など、精神疾患の治療法につながることが期待されるという。
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