理化学研究所は、自発的なうつ状態を繰り返すモデルマウスの作製に成功し、うつ状態の原因が脳内の視床室傍核という部位のミトコンドリア機能障害にあることを解明した。
理化学研究所(以下、理研)は2015年10月20日、自発的なうつ状態を繰り返すモデルマウスの作製に成功し、うつ状態の原因が脳内の視床室傍核という部位のミトコンドリア機能障害にあることを解明したと発表した。理研脳科学総合研究センターの加藤忠史チームリーダーらの研究グループによるもので、成果は米科学雑誌「Molecular Psychiatry」電子版に掲載された。
理研の精神疾患動態研究チームでは、ミトコンドリアの機能障害によって起こる遺伝病の1種「慢性進行性外眼筋麻痺(まひ)」が、うつ病や躁うつ病を伴うことに着目した。その原因遺伝子の変異が、神経のみで働くモデルマウスを作製した。また2006年には、同マウスが日内リズムの異常や性周期に伴い、2週間ほど活動が低下したことを報告している。
今回同研究チームは、この活動低下を詳細に分析。その結果、この状態は平均で半年に1回見られ、興味喪失、睡眠障害、食欲の変化、動作の緩慢、疲れやすい、社会行動の障害など、うつ病の診断基準を満たすことが分かった。同マウスは、抗うつ薬の投与で症状が減少するなど、うつ病と同様の治療反応性や、副腎皮質ホルモンが増加するなどの生理学的変化を示した。
さらに、活動低下の原因となる脳部位を探るため、異常なミトコンドリアDNAが蓄積している脳部位を探索したところ、従来うつ病との関連が不明だった視床室傍核に多く蓄積していることが分かった。同様のミトコンドリアの機能障害は、うつ状態を示すミトコンドリア病患者の視床室傍部でも見られたという。
このモデルマウスは、自発的かつ反復的なうつ状態を示す初めてのモデルマウスで、従来とは作用メカニズムが異なる抗うつ薬や気分安定薬の開発が期待できるという。今後、うつ病や躁うつ病の一部が、視床室傍核の病変で起きる仕組みが証明できれば、新しい診断法の開発につながる可能性があるとしている。
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