マツダのクルマづくりを支える先端材料研究を探る。モデルベース開発を応用した分子レベルでの素材開発や、耐食対策を効率化する短時間の防錆性能評価といった独自の取り組みを紹介する。
マツダは、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、トランスミッション、車体骨格、シャシーの全てを見直し、新世代技術群「SKYACTIV」として展開してきた。高度かつ迅速な開発を支えたのは、実機の試作に頼らずシミュレーションを活用するモデルベース開発(MBD)だ。自動車のMBDではECUの制御モデルと車両や車載システムのモデルを用いて机上で解析するのが一般的だが、マツダはMBDの適用範囲を広げている。
「シャシーやパワートレインのレベルではなくもっと深い、素材の開発からやろうというのが、材料MBDです」。マツダ 技術研究所 先端材料研究部門統括研究長の藤 和久氏は、材料MBDへと開発のステージを引き上げる目的を次のように説明してくれた。
「クルマの基本性能をより引き上げるためには、狙った通りの素材を設計することが必要になってきます。それに素材メーカーから購入してくるだけでは、その材料について説明することができません」。そのため素材の開発には分子、原子レベルまで踏み込むことが要求されるというのである。
燃焼の状態やシャシーに発生する応力を解析して最適な設計を追求していく従来のMBDが、コストを抑えながら、優れたプラットフォームやパワーユニットを開発するのに寄与したのは前述の通りである。しかし、実機で試さなければ分からない部分、検証してみなければ見えてこない問題などがあるので、実機を試作してからも開発作業は続く。
一方、原子や分子の構造レベルの開発となると試作よりも机上でのシミュレーションの部分が大きいため、MBDが適しているのかもしれない。しかし、それはあくまで開発の序盤、基礎研究分野のレベルでの話に思える。
「ストライクを出すためにボウリングの1番ピンを狙うように、開発の原点となる素材の化学的・物理的特性を解明すれば、そこから続く材料技術、構造設計、製法でのブレークスルーを実現しやすくなります」(藤氏)。形状や製法、表面加工などの仕上げで対応できる問題もあるが、それを素材の時点で解決できれば設計や製造の課題がなくなるだけでなく、さらに追い込んだ設計や製造を可能になるというのだ。
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