まず、ヘッドマウントディスプレイの小型化や薄型化、広視野化が進む。現状ではさまざまな投影原理が採用されており、複雑な光学システムもあるが、シンプルなものもある。その例としては近くのものを見やすくする老眼鏡と同じ仕組みがあり、ディスプレイを目に近づけながら、近距離でもピントが合うようにする。ディスプレイが目に近づくことで、視野の多くをディスプレイで覆うことができる。
現状では、HDの画質に慣れた人がヘッドマウントディスプレイを初めて使うと低画質だと感じてしまう。これは、小さいディスプレイを拡大して見せているためで、ディスプレイ自体を大型化すれば解像度が上げられる。しかし、ディスプレイを大きくするには描画速度や処理性能に課題があり、頭部の動きに追従しにくくなる。
ヘッドマウントディスプレイが8Kを扱えるようになると、自由にピントを合わせられるライトフィールド技術を採用できるようになるという。ヘッドマウントディスプレイ装着者の視力に関係なくピント調整が可能になる。
リアルさは視覚だけでなく触覚も影響するため、触覚をフィードバックする技術も進化している。研究事例としては、紙コップを使った“電子糸電話”で記録した声を紙コップ越しに聞こえるようにしたり、紙コップの中でビー玉やゴムボールが揺れる感触を再現して空の紙コップに伝達したりする。
この他にも、離れたところにいる人に脈拍を伝えるデバイスや、映像中の物体が指に当たった時に超音波を収束させて触った感じを与えるような装置が研究されている。単なる振動ではなく、手触りをきちんと伝えることができるようになっていると紹介した。
バーチャルな世界をどう見せるかだけではない。身体が入れ替わるというSFのような体験についても研究が進められているという。「相手の目線になって考える、感じる」ということを比喩ではなく本当に実行できるようになりそうだ。研究機関では、装着した機器で相手の視聴覚情報と交換したり、性別が入れ替わったかのように感じさせる実験が行われている。腰の位置にカメラを装着し、その映像をヘッドマウントディスプレイで見ることで子どもの目線を体験するという装置もあるという。
一瞬でその場に移動したかのように感じる「テレイグジスタンス、テレプレゼンス(遠隔存在感)」も研究が進められている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と大林組は、建機の遠隔操作にVRを活用しようと取り組んでいる。オペレーション可能な人材が限られる建機を遠隔で操作できるようにし、災害対応などに当たる。
この技術で人が移動するためのコストをゼロにできるため、働き方も変わっていくとしている。交代制の警備を行う場合に、夜間に働く人員を置くのではなく、時差で昼間に当たる地域から遠隔で警備することなどが想定できるという。
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