AI(人工知能)と同じく2016年にブームを迎えたVR(仮想現実)。2017年以降、このVRが、製造業や建設業の設計開発プロセスに大きな変化を与えそうだ。AR(拡張現実)についても、「デジタルツイン」をキーワードに3D CADで作成した3Dデータの活用が進む可能性が高い。
2016年、AI(人工知能)と並んで何度目かのブームを迎えた技術がある。VR(仮想現実)だ。
Facebookが買収したOculusの「Oculus Rift」、HTCの「VIVE」といったHMD(ヘッドマウントディスプレイ)型のVRシステムが発売された後、10月にはソニーがゲーム機「PlayStation 4」のオプションとなるVRシステム「PlayStation VR」の販売を開始した。
これらのVRシステムは、数万円〜10万円程度と安価な点が最大の特徴になっている。2016年以前に販売されていたVRシステムは、HMD型でも数百万円で、「CAVE(ケイブ)」と呼ばれる4面のスクリーンに映像を投影してユーザーが中に入るタイプのVRシステムであれば数億円に達する。Oculus RiftやVIVEの場合、接続するPCにかなり高性能のグラフィックスボードが組み込まれていなければならないため、VRシステム全体としての価格が数十万円〜100万円になってしまうことを考えても、大幅な価格低減が実現されたことは確かだ。
これらVRシステムの主な用途は、もっぱらゲームや映像などのエンターテインメントコンテンツを楽しむコンシューマー向けとみられている。実際に、VRシステムの出荷の多くはコンシューマー向けが占めることになりそうだ。
VRシステムの普及に向けた最大の課題とみられているのがVRコンテンツの不足だ。DVDやBlu-ray、3Dテレビ、そしてさまざまなゲーム機の普及の成否を分けたのはコンテンツだった。2016年に話題をさらったVRシステムも、魅力的なVRコンテンツがなければ、ケーブル付きの巨大なアイマスクにすぎない。
実は、VRに利用できるコンテンツが既に豊富に存在しているVRシステムの用途がある。長らく3D CADを活用してきたことで多数の3Dデータを蓄積している、製造業や建設業の設計開発、工場の生産ライン構築などだ。
3D CADは、それまでの2Dの図面を使用した設計に対して、設計したものの形状をより直感的に把握しやすいことが特徴の1つとなって普及が進んで行った。とはいえ、ブラウン管や液晶ディスプレイという2Dの画面越しでしか見ることができなかった。
VRシステムを使えば、設計した3Dデータがあたかも目の前にあるかのように見ることができる。自動車や船舶、航空機、住宅やビルの設備、工場の生産ラインといった、2Dの画面内に収まらないものであれば、実物のサイズ感も感じられるというわけだ。
さらに活用法を一歩進めれば、VR空間の中で3Dデータを見るだけでなく、設計そのものを行うことも可能になるかもしれない。そのときには、図面から3D CADと同じレベルで、設計プロセスのパラダイムチェンジが起こるかもしれない。
現在、VRシステムの設計開発プロセスへの展開に最も力を入れているのはオートデスク(Autodesk)だろう。同社は、VRが注目を集めている映像やゲームなどのエンターテインメントコンテンツ向けのツール群も主力事業の1つとしていることもあってか、製造業や建設業向けのツール群でもVR対応を強力に推進する方針を示している。
製造業向けでは、Oculus RiftとVIVEの両方に対応する3Dビジュアリゼーションソフトウェア「VRED」を中核にデザインレビュー用での提案を進めている。離れた場所にある設計拠点の間でVR空間を共有してのデザインレビューも可能になるという。
サイバネットシステムも2016年11月、VRを用いた設計レビュー支援システム「バーチャルデザインレビュー」を発売している。
そして大手3D CADベンダーであるダッソー・システムズ(Dassault Systemes)も、民生機器テクノロジーの展示会「CES 2017」(2017年1月5〜8日、米国ネバダ州ラスベガス)において、同社の「3Dエクスペリエンス・プラットフォーム」とVIVEを用いた3Dデータのデザインレビューのデモンストレーションを披露している。
2017〜2018年にかけて、大手3D CADベンダー各社は、自社のツールでVRシステムによるデザインレビューを行えるように機能を追加していくだろう。
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