「自己形成性は理論上は唱えられていた考えでしたが、実際の効果については疑問視するエンジニアや学者も少なくありませんでした。そこで実際に成形物を作って20μmずつ削って分子構造を確認したところ、やはり理論通りの組織にそろっていました。この検証作業だけで50時間を費やしました」(朝野氏)。
実際にバンパーを成形したところ、従来より流動性は高く、2mmの肉厚でも流動長450mmを確保していることが分かった。これにより、従来より20%軽量な薄肉軽量バンパーを作ることが可能になった。
「ただ、樹脂をフルパワーで射出させていたところ成形機が壊れて、その交換のために工場の柱を切断しなければならなくなりました。工場を拡張するために柱を取り去ったという話は聞いたことがありますが、機械を入れ替えるために工場の柱を切断したのはウチくらいじゃないでしょうか(笑)」(朝野氏)。
長年使用してきたというから、そろそろ機械が寿命だったということか。薄肉化したことで冷却のための時間も短縮できたことから、製品のサイクルタイムはほぼ半減し、28.6秒を実現できているという。成形機は増やすことなく、生産量を上げることも実現できたことになる。「サイクルタイムを28秒以下に短縮すると、作業員が追い付かなくなってしまいます。そういう意味でもこの辺りが生産効率としては限界ですね」(朝野氏)。
高分子と低分子の材料を組み合せただけなので、従来よりもむしろ材料費は安くなっているという。この技術は2012年に発売された先代のCX-5から導入され、それ以降のマツダ車に採用されている。
マツダは樹脂部品の改良で、軽量・高剛性化だけではなく意匠性の向上にも取り組んでいる。その例が、塗装なしでピアノブラックの質感を実現したバイオエンプラだ。ライトウェイトスポーツカー「ロードスター RF」で外装部品に採用されている。
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