垂直方向の連携で考える際に重要になるのがデータの置き所と、それを中心としたIoTプラットフォームの展開である。IoTの生み出す究極的な価値は「全ての企業活動をデータ化しそれを活用すること」だが、その意味で価値の源泉となる「データ」をどこに置くのかという点が、論点となる。
IoTが話題になり始めた数年前は、集めたデータを全てクラウドに集めるという考え方が支配的だった。IoTであらゆる機器から情報を集めることを考えればスケーラビリティ(拡張性)のあるクラウドの利点が発揮できるためである。さらにデータをクラウドで一元的に保有できれば、クラウド上で分析なども行うことができ、ユーザー側の負荷を低減できる。ただ、CPS(サイバーフィジカルシステム)を想定した場合、クラウド上で分析した結果を現実世界にフィードバックすることを考えると、通信状況による遅延が生まれるクラウドでの処理は、リアルタイム性が要求される環境では使用できない。
そこで重要になってくるのが、現場(エッジ)に近い領域でデータの一次処理を行うエッジコンピューティング、もしくはフォグコンピューティングなどの考え方である。エッジ領域でリアルタイム性が要求される事象についてはその場で処理して現実世界にフィードバックし、リアルタイム性が必要なく大規模な演算力によるデータ分析が必要なものについてはクラウドに上げるというような仕組みである。
こうしたデータの置き所を基盤としたIoTプラットフォームなどの展開も広がりを見せている。代表的な取り組みが、米国マイクロソフト(Microsoft)の「Azure IoT」やアマゾン(Amazon.com)の「AWS IoT」など、大手ITベンダーが力を入れる「クラウド層を軸としたIoTプラットフォーム」である※)。
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最終的なデータの収納先であるクラウド側に収納しやすい形でデータを取得できるようにする仕組みである。NECが提唱する「IoTアーキテクチャ5層モデル」でいえばL5からL4を中心にカバーするIoTプラットフォームである。
一方で、エッジコンピューティングを中心とし上位と下位の接続を確保しようというIoTプラットフォームの提案も増えてきている。製造業でいえば最も大きな動きとしてはファナックが推進する「FIELD system」がある※)。
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ファナックは、米国のネットワークベンダーであるシスコシステムズ(Cisco Systems)、産業用オートメーション関連のロックウェルオートメーション(Rockwell Automation)、日本の深層学習技術のベンチャーであるPreferred Networks(以下、PFN)、NTTグループなどと提携し、製造現場を軸としたエッジコンピューティング層での処理に重点を置いたIoTプラットフォームを提唱。APIを公開し既に200社以上のパートナーを集めている。これは、IoTアーキテクチャ5層モデルでいえば、L3を軸にL4やL2をカバーする仕組みである。ファナックではL1のデバイスコンピューティングレベルではCNC(コンピュータ数値制御)で高いシェアを持っているため、現場レベルから上位を結ぶという仕組みを構築している。
これらのように、IoTプラットフォームとして既に展開されている枠組みもカバー範囲が大きく異なっている。この他に、製造業でもあるITベンダーであるNECや富士通、日立製作所などの国産ベンダーはこれらの中間的な立ち位置を取っていたり、ネットワークベンダーがIoT向けでL4やL5の一部をカバーするような枠組みを提供したりするなど、IoTプラットフォームの在り方は2017年はさらに大きな変化が進む。トータルサービスとしてIoTプラットフォーム同士のアライアンスなども加速する見込みだ。
製造業のユーザー企業にとっては、最終的にはこれらを全てカバーする形が理想像だが、そこまでにはまだまだ道のりが長いと見られており、どの領域が必要なのかを見極めながら活用していく必要がある。
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