キヤノンにとって、医療分野は創立以来の悲願に近い事業領域である。キヤノン創業者の1人である御手洗毅氏(御手洗冨士夫氏の伯父)はもともと産婦人科医であり「医療分野には創立時以来の関心とあこがれがあった」と御手洗冨士夫氏は述べる。ただ、必要な技術が伴わず、ポータブルレントゲン関連機器や眼底検査装置などの製品以外は大きく伸ばすことができない状況だった。
こうした中で、生まれてきたのが東芝メディカルのM&Aである。東芝メディカルは1930年から中核として医療機器を開発してきた。また、画像診断機器では世界シェア4位に位置し、キヤノンの医療機器との重複もほとんどない。
東芝メディカルの2016年3月期の売上高は約2913億円、営業利益は約82億円、純利益は約164億円という業績だが、キヤノンによる取得価格は約6655億円になる。ただ、これに対しても御手洗冨士夫氏は「よく買収価格が高いとか安いとか言われるがその発想はファンド的に解散価格を想定したものであり、われわれには当てはまらない。今後医療機器領域には年平均5%程度の成長余力を持っていると考える。この中で最初から新規で事業を起こすことを考えれば、優秀な社員やノウハウを抱えている東芝メディカルには非常に大きな価値がある。20年や30年、40年先を見据えた新規事業の投資であり、短期の価格では測れない」と買収についての考えを述べている。
シナジー効果については、画像診断をコアにしつつ両社の技術を組み合わせることによる新分野への進出加速や、キヤノンの生産技術を東芝メディカルに持ち込むことによる競争力強化、開発力強化による事業領域の拡大などを挙げている。
東芝メディカル代表取締役社長の瀧口登志夫氏は「東芝の新生アクションプラン発表から全てが始まり、約1年にわたり『Made for Life』の理念のもと社員一丸となって姿を維持できるように頑張ってきた。ミッションとしては、臨床医師が患者により質の高い医療を提供するということがある。これを実現するために必要な情報を収集し、統合し、加工して提示する技術を提供していく。今までは画像診断が中心だったが、少子高齢化や医療費高騰、新たな医療技術の登場などのトレンドを取り込みながら理念に沿った使命を果たしたい」と述べている。
医療分野はキヤノンとの協業があったとしても、GEやシーメンス、フィリップスなどの競合がひしめいているが、瀧口氏は「まず大前提として、臨床的価値の重要性変わらないため、継続的に強化する。ポイントはテクノロジーリーダーシップとハイクオリティだと考えている。さらに新たなITを活用した医療については、米国でM&Aなどを通じて既に取り組みを開始している。競合企業も端緒についたばかりで、逆に医療情報システム事業など当社だけが持つような価値もあり、勝てる領域も多い」と語っている。
両社は競争法的な問題から現在まで2社での話し合いが一切禁じられてきたが、今回の買収決定により正式に次の事業展開に向けた話し合いが行えるようになる。新たな社名などについても「今後決めることになる」(瀧口氏)としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.