南川氏が冒頭で指摘した、IoTにおけるエッジ側での処理は、高い応答性を求めるアプリケーションに対応するために需要が拡大するとみられている。このエッジコンピューティングとクラウドを合わせた消費電力は、将来的に世界の電力消費量の10%近くに達する可能性がある。
「このままいくと2020年以降に世界の電力需給に問題が発生する」(南川氏)。そこで求められるのが、先述したエッジ側の消費電力を引き下げる人工知能チップだが、もう1つ重視されるのがパワー半導体だ。
IoTの生産技術への活用であるインダストリー4.0などでは、モーター制御を効率化するインバータ化も必須になる。世界の電力需要の55%はモーター駆動に用いられており、そのうち6割のモーターが工場で使われている。しかし、モーターの2割にしかインバータは搭載されていないのが現状だ。「モーターの効率向上に関する規制には、日本や米国、欧州、中国も対応しており、インバータ化は進展することになる。そしてパワー半導体市場も着実に成長する」(南川氏)という。
これらのIoTによって市場拡大が期待されている人工知能チップやパワー半導体、センサーは、従来のPCやスマートフォン向けプロセッサのような最先端の微細化が必要ないといわれている。人工知能チップの代表であるTrueNorthは28nmプロセスを用いてかなり大規模な回路サイズになっているものの、エッジコンピューティングに用いるのであれば45〜90nmレベルの“枯れたプロセス”でも十分な性能を確保できるという意見もある。
そういった最先端ではないプロセスで半導体を製造する上で、現在重宝されているのが8インチ(200mm)ウエハーラインだ。パワー半導体やアナログIC、センサーはほとんどが8インチ以下のウエハーサイズのラインで製造されており「世界中の8インチラインは不足している」(南川氏)ほどだ。
南川氏は、「国内でIoTを動かしていくキープレーヤーは電子部品メーカーだ。IoTデバイスのさらなる小型化は、電子部品メーカーが半導体メーカーと協業を深めることで実現できる。モーターと電子部品で世界トップ、高度な半導体技術も有している日本は、IoT時代の機電一体ハードウェアを先導できる唯一の国だ。後れを取っているといわれるソフトウェア技術は一朝一夕で巻き返せない以上、やはりハードウェアで勝っていかなければならない」と述べている。
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