前編では「Nest」を活用し、スマートホーム市場のプラットフォームを狙うGoogleの戦略について解説した。後編ではGoogleのもう1つのアプローチ方法を紹介するとともに、相次いで登場したスマートホーム分野でのライバルの動向について解説する。
Google傘下のNest Labsは、2014年7月にSamsungやARMらとともに「Thread Group」を設立した。Thread Groupとは、低消費電力の無線メッシュネットワークを構築するためのプロトコル「Thread」の普及を目的とする標準化団体である。Threadは接続するデバイスをドアロックやセキュリティセンサーといった、長期間の利用を必要とする電池式ローエンドデバイスに絞っており、かつ250〜300台のデバイスを容易にメッシュネットワークでつなぐことができる点が特徴だ。
Googleは、Nest Labsの買収により、Nestサーモスタットを用いた開発プラットフォーム「Works with Nest」だけでなく、同社が標準化を目指す家庭用デバイス向け通信プロトコル「Thread」という2つのアプローチでスマートホーム市場に参入したといえる。
Googleのこのような動向に刺激され、IoTへの取り組みを加速させているのは半導体メーカーのQualcommとIntelだ。
Qualcommは2013年12月に「AllSeen Alliance」へ参加し、スマートホーム市場への参入を果たした。AllSeen Alliance自体はLinux Foundationが立ち上げた第11番目かつ最大のプロジェクトで、IoT市場におけるイノベーションを促進することを目的としたオープン・ソフトウェア・フレームワークの構築を目指すものである。
AllJoynは「家の中で端末同士が会話するにあたり、何もかもがインターネットを経由する必要はない」との考えのもと、ネットワークやOSを問わずデバイス間でのセキュアな通信を実現するために開発されたプロトコルである。Qualcommは2009年にデバイス間通信技術「AllJoyn」を開発していたが、それをオープンソース化して同プロジェクトで展開することにより、同団体における主導権を握ることとなった。
「AllJoyn」と前述の「Thread」との差は何か。Qualcommの完全子会社であるQualcomm Connected Experiences.のAllJoyn 担当者は、Mobile World Congress(MWC:毎年スペインのバルセロナで開催されるモバイルの祭典)における筆者のインタビューに対し、「Nestはクラウドを用いたインテグレーションであり、1対多端末での通信を想定しているのに対し、AllSeenはクラウドを介するのではなくデバイス同士で通信を実現する多端末対多端末の通信を想定している」と答えた。
前述のようにAllJoynは当初の開発目的から、これまでは宅内等限られたエリア内でのデバイス間通信にとどまっており、インターネットを経由したデバイス制御などができなかった。しかしIoTを実現する上で、外部からのアクセスは必須だ。そこでAllSeen Allianceが2015年1月に米国で開催されたInternational CES(CES:国際家電見本市)で新たに発表したのが、「AllJoyn Gateway Agent」である。これにより、セキュリティやプライバシーに配慮した、相互接続可能なリモートアクセス・リモート管理を実現した。
それも影響してか、AllJoyn Gateway Agent発表時には112社だった同アライアンスへの参画企業数は、同年3月のMWCでは142社へと急増した。また2014年にはMicrosoftやソニーなどの大企業が同アライアンスに加盟したことで注目されている。
AllSeen Allianceの今後の展望についてAllJoyn担当者は、「AllSeen Alliance参画企業の中には、スマートホームに対してだけではなく、SMB(中小企業)やエンタープライズ、コマーシャル(商用)、インダストリー向けにも取り組んでいる。全ての企業がスマートホームを対象としているわけではない」として、今後はスマートホームに留まらないことを示唆している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.