安西氏は、同氏が議長を務める人工知能技術戦略会議などの国内AI開発の状況についても説明した。
人工知能技術戦略会議は、総務省、文部科学省、経済産業省の3省連携によるAI技術開発の司令塔となる組織である。まずは、2016年度末までにAI技術の研究開発目標と産業化のロードマップを策定する計画だ。安西氏は「もっと早く出せるのでは、という意見もあるが、2030年の社会を想定していることもあり時間がかかっている」と説明する。また、各省による縦割りの組織構成を排した、一体的な研究開発、課題解決も推進しており「オールジャパン体制が整いつつある」(同氏)とした。
政府によるAI開発の予算をまとめると、2017年度の概算要求で924億円。2016年度予算で487億円だったのでほぼ倍増に近い伸びだ。さらに2016年度補正予算でも358億円が加わっている。
とはいえ、AIを開発している国内IT企業の国際競争ポジションは、欧米のIT企業より優位にあるとはいえない。例えば、IT企業の研究開発投資額を比較すると、米国の5兆5900億円に対して、国内は3047億円にとどまっている。政府投資も、米国が300億円以上、欧州が233億円あるが、国内は約100億円にすぎない。安西氏は、「投資額をいたずらに増やせばいいというものではないが、効率よく研究開発を進められる仕組みが必要だ」と述べる。
また、Society 5.0に向けて、AIやビッグデータ、IoTといったITの導入によって産業構造や就業構造が変化していくにもかかわらず、研究開発構造の転換が進んでいないという課題も指摘した。海外が研究開発で注力する情報通信技術が、国内では依然として中心とならず周辺に位置付けられているからだ。安西氏は、AI研究を行っている8大学の人材育成の状況を示しつつ「修士卒で619人、博士卒で123人という数字をどう見るかだ」と疑問を投げかけた。
この他にも、「AIやビッグデータ、IoTは『システムデザイン&マネジメント技術』である」「国内企業のほとんどがCDO(Chief Digital Officer)を置いていない、単なる情シス部門の責任者ではなく、AIやビッグデータ、IoT、サイバーセキュリティなどに責任をもって対応できる人材が必要だ」など、さまざまな提言も行った。
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