コンテストでは、応募の要件として、ブロックチェーンの暗号化および基盤技術に言及し、本連載第1回で取り上げた「国家のためのコネクテッドヘルスとケア:相互運用性ロードマップ」(関連情報)、連載第2回で取り上げた「プレシジョンメディシン・イニシアチブ」(関連情報)、「患者中心のアウトカム研究(PCOR)」(関連情報)など、医療分野の相互運用性(Interoperability)に関わる要求事項をどのように前進させるかについて検証することが明記された。
ONCは、「連邦ヘルスIT戦略計画2015−2020」(関連情報、PDFファイル)に基づいて策定した相互運用性ロードマップの中で、2017年をめどに患者と医療機関の情報共有への取り組みに注力し、2020年をめどにモバイルヘルスやウェアラブル機器との連携を加速させ、2024年までに自律的な学習型医療システムの実現を目指す取り組みを行う方向性を示している。
米国では、第二次世界大戦直後から急増したベビーブーマー世代の高齢化が進行しており、その第1世代は、日本の「2025年問題」とほぼ同じタイムラインで動いている。この流れを踏まえながら、医療分野でブロックチェーンを有効活用するためには、相互運用性の標準化/整合性確保が避けて通れない課題となっている。相互運用性を前提とした医療ビッグデータ環境上で初めて、機械学習や深層学習に代表される高度な人工知能(AI)技術の有効活用による自律的な学習型医療システムの実現が可能となるのだ。
2016年9月1日、ONCは、「医療ITおよび医療関連研究におけるブロックチェーンとその新たな役割」の入賞者15チームを正式に発表した(関連情報)。入賞したホワイトペーパーは、下記の表1の通りだ。医療保険政策、診療報酬支払制度、相互運用性、電子カルテシステム、地域医療連携ネットワーク、医療アウトカム評価、AIなど、さまざまな適用領域が取り上げられている。
番号 | 表題 | 執筆者 |
---|---|---|
1 | ブロックチェーンと医療IT:アルゴリズム、プライバシーとデータ | MITの実験学習 ”MIT FinTech: Future Commerce”のプロジェクトPharmOrchard |
2 | ブロックチェーン:新たな医療の相互運用性の経験をセキュア化する | アクセンチュア |
3 | ブロックチェーン技術:どのようにして請求プロセスを改善できるかについて議論したホワイトペーパー | K.カルヴァー氏 |
4 | ブロックチェーン:医療にとっての機会 | デロイト コンサルティング |
5 | 医療におけるブロックチェーンのケーススタディ:電子健康記録と医療研究データのための”MedRec” プロトタイプ | MITメディアラボ、ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター |
6 | 患者から報告されるアウトカム評価手法の開発を促進するブロックチェーン利用 | 国家品質フォーラム |
7 | ‘HIE of One’ ブロックチェーン医療ITによる医師と患者の関係性強化 | A.グロッパー氏 |
8 | ブロックチェーン:医療変革のための信頼と潜在的可能性のチェーン −われわれの視点 | IBMグローバルビジネスサービス・パブリックセクター |
9 | 患者記録のセキュアな保存のためのブロックチェーンに基づく手法に向けた進歩 | D.イヴァン氏 |
10 | ModelChain:プライベート・ブロックチェーン・ネットワーク上の分散型プライバシー保護医療予測モデル化フレームワーク | カリフォルニア大学サンディエゴ校、VAサンディエゴ・ヘルスケア・システム |
11 | 医療データのためのブロックチェーンと医療ITおよび医療関連研究における利用可能性 | L.リン氏、M.クー氏 |
12 | ブロックチェーンに基づく医療情報連携ネットワークへのアプローチ | メーヨ・クリニック |
13 | スケーラビリティを可能にするブロックチェーンの採用とアカウンタブルケアの採用 | R.プラカシュ氏 |
14 | メディケイドの申請者と受給者のためのブロックチェーン | 未来研究所ブロックチェーン・フューチャー・ラボ |
15 | ブロックチェーンと代替支払モデル | K.イエップ氏 |
表1 「医療ITおよび医療関連研究におけるブロックチェーンとその新たな役割」の入賞者15チーム |
これらの中で、IoTとブロックチェーン技術の連携に着目したホワイトペーパーが、表1の6番目になる、国家品質フォーラム/JC.ゴールドウォーター氏による「患者から報告されるアウトカム評価手法の開発を促進するブロックチェーン利用」だ。患者の医療デバイスから生成される機微なデータを既存のクラウドストレージ環境に保存した場合、患者データ保護など、セキュリティ/プライバシーのリスクが常について回る。そのリスク低減策として、ブロックチェーン技術の利用を提唱しているのが、この論文の特徴の1つだ。
医療機器開発の観点からは、センサー、ウェアラブル機器など、どちらかと言えばクローズドなIoTデバイス環境とオープンな標準化志向のビッグデータクラウド環境を連携させたICTサプライチェーンの全体最適化をどう図るかが、不可避の課題となっている。この課題解決のためにブロックチェーン技術が活用できれば、ハードウェアの技術/機能面でもイノベーションが生まれるかもしれない。
なお、コンテスト受賞者によるプレゼンテーションは、2016年9月26日〜27日に開催される予定だ。
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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