金属加工の現場の苦労を知ると、公差設計もきちっとしなきゃって思うよねママさん設計者の「モノづくり放浪記」(1)(6/6 ページ)

» 2016年04月15日 10時00分 公開
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加工ひずみの理解

 「今の世の中、工作機械はほとんどNCなんだから、ちょっと慣れれば誰がやっても同じ品質のものが作れるんでしょ」というイメージは、当たっているけれどハズレでもあります。CAMを使ってシミュレーションしたパスの通りに手間なく加工ができれば話は別ですが、事件はいつも現場で起きるのです。よくあるケースが「加工ひずみ」です。

 材料は生まれつき「ひずみ」を持っています。高い熱や高い圧力をかけて無理やり成形して生まれてきたのでそうなるのも仕方がありませんね。生まれつきひずみを持った材料をいきなり切削した場合、そこには新たなひずみが発生します。これが加工ひずみです。特に平面度が指示されている部品はひずみの程度が問題になりますから、その発生を低減するために残留応力除去処理(生まれつきのひずみを除去する熱処理)がされた材料を用いたり、治具を作成して材料の固定方法を工夫したり、エンドミルの切込み量や回転や送りなど加工条件の工夫など現場での個別対応をしたりが必要となります。「段取り」と呼ばれるこの作業はまさに試行錯誤であり、この蓄積が加工ノウハウとなるのです。

 部品加工の作業では、必要により加工途中の寸法確認を作業者が行います。主に「ここ、とても大事ですよ」と図面上で公差指定された箇所です。先述の「加工ひずみ」の例のように、もし加工途中で数値が指定公差から外れていれば手直し、あるいは再製作ということになります。

出荷前検査

 こうして無事機械加工を終えた先の最後の関所が「出荷前検査」です。出荷前の外観検査と寸法検査を行う部屋はこちらです。

3次元測定機

 3次元測定機は計3台あり、要求精度の特に厳しい部品の場合は、時に3台で測定を実施し、二重三重に数値を確認し整合性を取って合否判定することもあります。3次元測定器はもちろん、どの測定器も定期的に校正を受けて正しい環境下で使われているのですが、これほど入念な寸法検査を行い社内で「合格」としたものが、納品先では「不合格」と判定されることもまれにあるのです(原因はいろいろ考えられますが、話がとても長くなるので、また別の機会にでも触れたいと思います)。

 それとは反対に、社内検査で「寸法外れのため不合格」としたものを納品先で検査したら「寸法はちゃんと入っていますよ」と、合格扱いになることも。もしどちらの部品も使用上全く問題がないと判断された場合、これは前提となる「公差」を見直す必要が出てきます。加工側は図面の指示に従うことが原則ですから、厳しい要求精度でもモノにできる見通しが立てば何工程かけても頑張ってくれます。であれば、その時間と技能を有効に使わせていただくためにも、部品の用途に見合った公差設計を心掛けねばと思った次第です(あー、耳が痛い)。

3D CADデータと公差指定

 ところで、ちまたではそのメリットばかり注目されている3D CADデータですが、長年それによる加工を行ってきた同社は、その経験則から「3D CADデータのデメリット」も心得ています。設計側にはメリットばかりに思える3D CADデータですが、加工側のデメリットとはどんなものなのでしょう。

 実は3Dデータのみでは加工側に設計側の思想が十分に伝わりません。まず、3Dデータは、通常パラソリッドなどの中間形式に変換されて加工側に渡されます。この時点で拘束が消えて公差も消えてなくなります。従って、データ上の寸法は狙い値で、公差は「0/0」と解釈するしかなくなります。そのため仕上がり寸法のバラツキは「機械精度による成りゆき」という曖昧なものになります。もし2D図面の提供があれば3Dデータだけでは不足している情報を補完しながら適切な加工法を検討できるのですが、2D図面が提供されない場合は「寸法は機械精度なりでOK」という承認を取った上での加工となります。

 つまり高精度な部品ほど2D図面の持つ情報を必要とするわけです。しかし近年、この2D図面もやや情報不足な傾向が見られるとのこと。特に目立つのは公差指定箇所以外の寸法が未記入なケースです。この場合、3Dデータから寸法を拾わねばならず段取りに手間取ってしまいます。3Dデータと併せて2D図面を提供する際には、加工者が必要とする情報がもれなく記入されているか確認が必要ですね(あー、耳が痛い)。

新しい機械の導入とワクワクする気持ち

 現在資材置き場になっているこのスペースに、間もなくヤマザキマザックの最新型5軸マシニングセンタが2台設置されます。

今は資材置き場だけど……

 日本インテックでは初のMAZAK機となります。ちょっと気になったので、なぜあえてMAZAKを選んだのかと尋ねました。

 「作業者にモノづくりを好きになってもらうために環境を変えたいのです。直感的で操作を覚えやすく、早く成果物を手にして手応えを感じてもらいステップアップにつないでいきたい。そのためのMAZAK導入です」(同社)。

 MAZAKのCNCソフト「マザトロール」は、「誰でも簡単に使えるNC装置」という発想から生まれた、使う人を選ばない対話型のNC装置です。最新の5軸加工機では、タブレット端末のような直感的操作が特徴のタッチパネル式のインタフェースを採用していて、機械本体のデザインもカッコいいです。確かに「いいものを作りたい」という気持ちにさせる機械といった印象です。それによって若い新人さんからベテランさんまで、皆がワクワクするような作業環境が実現すれば、これからの生産性や品質にもよい影響をもたらすのではないかと期待しています。

Profile

藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)

長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。

・筆者ブログ「ガノタなモノづくりママの日常」



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