東京大学は、神経細胞のコンピュータシミュレーションと動物実験を組み合わせることで、睡眠・覚醒の制御にカルシウムイオンが重要な役割を果たしていることを明らかにしたと発表した。
東京大学は2016年3月18日、神経細胞のコンピュータシミュレーションと動物実験を組み合わせることで、睡眠・覚醒の制御にカルシウムイオンが重要な役割を果たしていることを明らかにしたと発表した。
同研究は、同大学大学院医学系研究科の上田泰己教授、同大学医学部の多月文哉学部学生らと、理化学研究所生命システム研究センターの共同研究グループによるもので、成果は2016年3月17日、科学誌「Neuron」のオンライン版に掲載された。
全ての生物は睡眠をとるが、その睡眠時間は異なると考えられている。また、哺乳類は睡眠をとることによって、例えば脳内の老廃物を取り除いたり、免疫機能を回復したりする。しかし、なぜ眠るのか、どのように睡眠時間が調整されているのかといった睡眠の本質的メカニズムはよく分かっていなかった。
同研究グループは、睡眠のコンピュータモデルを用いて、睡眠時間はカルシウムによって調整されていると予測し、その役割を担っている可能性のある複数の遺伝子を特定した。そして、カルシウム調整に関わる遺伝子を取り除いた21の遺伝子改変マウスを作り出し、この予測を検証した。
検証の結果、21種類の遺伝子改変マウスのうち、7種類の遺伝子改変マウスについて睡眠時間に有意な変化が見られた。また研究グループは、マウスが眠りにつくためには神経細胞にカルシウムイオンが流入する必要があり、マウスが覚醒するためにはカルシウムイオンが神経細胞から流出する必要があることを発見した。この発見は、コンピュータモデルによる予測と一致していた。
この研究は、カルシウムイオンの流入に伴う神経細胞の過分極が睡眠を誘導することを世界で初めて明らかにしたものであり、睡眠時間を調整する分子を特定した点が成果といえる。今後、睡眠障害だけでなく睡眠障害を合併するさまざまな精神疾患や神経変性疾患(統合失調症、うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病など)の機序の解明、それらに対する診断法や治療法の開発(新規の標的遺伝子の提案)につながることが期待される。
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