名古屋大学は、左右性のモデルとして知られる鱗食(りんしょく)性シクリッド科魚類で捕食行動の利きの獲得過程の全体像を調べ、体の成長とともに利きが強化されることを明らかにした。
名古屋大学は2016年1月28日、左右性のモデルとして知られる鱗食(りんしょく)性シクリッド科魚類で捕食行動の利きの獲得過程を調べ、体の成長とともに利きが強化されることを明らかにしたと発表した。同大学大学院理学研究科の小田洋一教授と富山大学大学院医学薬学研究部(医学)の竹内勇一助教らの共同研究チームによるもので、成果は同月25日付で、米科学誌「PLoS ONE」で公開された。
行動の左右性、いわゆる「右利き」「左利き」は、多くの動物で見られる現象だ。左右性のモデルとして有名なタンガニイカ湖産鱗食性シクリッド科魚類「Perissodus microlepis」(以下、鱗食魚)の成魚は、個体ごとに口部形態に左右差があり、獲物の魚のうろこをはぎ取って食べる際、はっきりと利きを示す。左下顎骨が発達した左利きは被食魚の左体側を、右下顎骨が発達した右利きは右体側のうろこのみを食べるという。しかし従来、鱗食魚の左右性が検討されたのは成魚のみで、その獲得プロセスについては明らかにされていなかった。
今回、同研究グループは、さまざまな発達段階の鱗食魚(体長22〜115mm)が摂食した側線鱗の形状から、そのうろこが右・左どちらの体側由来であるかを判定する方法を確立し、胃の内容分析を行った。
うろこを食べ始めた幼魚(体長45mm前後)の胃からは、左右両側のうろこが出てきた。これは、幼魚が獲物の両方向から襲っていたことを意味するが、成長が進むと、次第に口部形態の利きと合致した体側のうろこばかりが出てきた。つまり、右顎が発達した個体は右から、左顎が発達した個体は左から襲撃するようになることを示しており、捕食行動の利きは、体の成長とともに強化されることが分かった。
一方、下顎骨の左右差の計測から、鱗食前のプランクトン食期の幼魚(体長22〜45mm)でも、口部形態の左右差は明らかだった。このことから、口部形態の左右差は、発達上、捕食行動の利きよりも先に現れることが示唆され、捕食行動の利きと同様に成長に伴って拡大することが分かった。また、下顎骨の左右差が大きいほど多くのうろこを摂食しており、鱗食魚は左右性を持つ方が摂食にとって有利であるということを実証した。
左右性行動が成長に伴って変化するという同成果は、「利き」を制御する脳内機構も個体発達中に変化しうるということを示している。鱗食魚は哺乳類よりもシンプルな脳を持ち、利きが単純な運動に現れるため、同成果は「利きの脳内制御機構」の全貌解明につながることが期待される。
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