第5回で紹介したように、失敗原因の1つとして「成功体験がない」を挙げることができます。そこで、育成においては成功体験を積みかねることが重要となります。しかし座学などでは、どうしても予定調和的な成功体験、つまり初めから仕組まれた成功体験しか、与えることができないでしょう。受講者もこの成功体験は現実離れしていると感じてしまうかも知れません。
そこで成功体験も計画的なOJTか、師匠からの教えの中で経験していくことが望ましいとなります。しかし、このときは失敗もするでしょうし、やり直しが必要になるかも知れません。コストもかかるでしょうが、このコストも含めて、育成には投資しなくてはいけません。このためには次に紹介する、組織としてのモデリング文化の醸成が必要になってきます。
モデラーを育成する環境には、モデリング文化が必要です。これには、モデリングとプロセスとの融合、ドキュメントとしてのモデリング、設計図としてのモデリング、プログラムとしてのモデリング、モデリングの評価、モデリングのリファクタリングなどの複合的な施策を実施し、モデリングをすることが当たり前となるように、モデリング文化を醸成していく必要があります。
例えば、モデリング活動をハイプカーブに則って、期間に応じた活動をします。モデリングの黎明(れいめい)期(草創期)では規則によってモデリング活動を縛っても大丈夫な期間です。普及のためのアーリーアダプターのための勉強会が必要な期間でもあります。
流行期(期待期)では初心者教育や事例報告会を活発に行います。幻滅期(減退期)では失敗事例の報告会や継続的活動の重要性を訴える報告会などを開催して、反省も含めて、モデリング活動の再評価を行います。
回復期(第2草創期・第2成長期)になれば、さらに継続的活動の重要性を訴える活動をすることなどで、モデリング文化を醸成できます。そしてモデリング活動を安定期まで持っていきます。これを図10に示します。
今回の記事で触れてきたキーワードや教訓を、「モデラーへの長い道」としてまとめています。詳細は本文を見てください。
次回は今まで紹介してきた内容をQ&A (FAQ)方式にして、モデリングを成功する道を簡潔にまとめて紹介します。また連載記事の最後に掲載していたモデラーへの長い道を教訓集として紹介します。これらの FAQ と教訓集がプロジェクトを成功させるモデリングの極意をまとめたものになります。
OKI(沖電気工業) シニアスペシャリスト、エバンジェリスト。博士(工学)。
ソフトウエアの開発支援・教育に従事。電子情報技術産業協会(JEITA)専門委員会の委員長や情報処理振興機構(IPA/SEC)などの委員多数。情報処理学会(シニア会員)。三重大学などの非常勤講師も務める。エンタープライズ系と組み込み系におけるソフトウエア開発の知見融合が関心事。
共著書に『定量的品質予測のススメ』(オーム社、2008年)、『プログラミング言語論』(コロナ社、2008年)などがある。
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