理化学研究所は、歯の元となる歯胚を操作し、1つの歯胚から複数の歯胚を発生させる分割技術を開発した。この技術は歯胚だけでなく、他器官へも適用できる可能性があり、再生移植医療の技術開発へつながることが期待される。
理化学研究所は2015年12月24日、マウスをモデルにした研究で、歯の元となる原基(歯胚)の分割操作をすることで、1つの歯胚から複数の歯胚を発生させる歯胚分割技術を開発したと発表した。この研究は、同研究所多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チームの辻孝チームリーダー、東京医科歯科大学医歯学総合研究科顎顔面矯正学分野の森山啓司教授らの共同研究グループによるもので、成果は12月17日付で、英オンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
歯の喪失に対する治療として、入れ歯やブリッジ、インプラントといった人工物による代替治療が行われている。しかし、これらの治療法だけでは、歯の生理的機能を完全に回復することが難しいため、より生物学的な機能を付加し、周囲の組織と連携して機能する「歯科再生治療」の開発が期待されているという。現在、歯科再生治療としては、自身の機能していない歯を歯の欠損部に移植し、歯の生理機能を回復する自家歯牙移植や、幼弱な発生段階の自家歯胚を移植し、歯を発生させる歯胚移植治療がある。しかし、1つの個体が持つ移植可能な歯や歯胚には限りがあるため、歯胚の数を増やす技術の開発が望まれていた。
今回の研究では、歯胚において歯の発生制御に重要な機能が形成される、胎齢14.5日のマウス臼歯歯胚をナイロン糸で結紮(けっさつ)し器官培養したところ、2つの歯胚が発生した。
さらに、分割した歯胚が口腔内で正常な歯に発生するかを確認するため、結紮歯胚をマウス腎皮膜下に移植。結果、正常な組織構造を持つ独立した2つの歯が形成された。これらの分割歯は大きさや咬頭の数(歯冠上部の突起数)が天然歯のおよそ半分だった。
歯の発生初期に重要な遺伝子の発現をin situハイブリダイゼーション(組織切片に遺伝子を検出させる試薬を入れて、その発現を解析する方法)で解析したところ、分割歯胚も天然歯胚と同様の分子メカニズムで発生していることが示された。同じ手法を用いて、歯の数やサイズの決定にかかわるとされる遺伝子の発現パターンを解析し、歯胚が分割される仕組みも分析した。
続いて、分割歯胚を口腔内に移植した時に、移植を受ける個体の顎骨と正常に生着するか、周囲組織と連携して機能するかを調べるため、マウスの口腔内に分割歯胚を移植し観察した。その結果、移植約2カ月後には反対側の歯と咬合し、機能していることがわかった。また、再生歯は矯正力を加えることによって、骨リモデリングを介した歯の移動が可能で、痛みなどを感知する神経機能も持っており、機能的にも天然歯と同等だった。
今回の技術を発展させ、ヒトへ応用することができれば、現在の課題である移植数の問題を解決できるかもしれず、また、先天性歯胚欠損や歯の喪失患者の自己歯胚を用いて免疫学的拒絶反応を受けることなく、歯の数を増やせる可能性もあるとしている。さらに、同分割技術は、歯胚だけでなくその他の器官に対しても適用できる可能性があるため、新たな再生移植医療の技術開発へつながることが期待できるという。
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