細胞が生きた状態で心臓組織シートを簡便に積層化する方法を開発医療技術ニュース

京都大学は、ゼラチンハイドロゲル粒子を利用することで、マウスES細胞から作製した心臓組織シートを簡便に積層化する手法を確立。このシート15枚を積層化し、細胞が生きた状態で厚さ約1mmにすることに成功したと発表した。

» 2015年12月18日 08時00分 公開
[MONOist]

 京都大学は2015年11月27日、ゼラチンハイドロゲル粒子を利用することで、マウスES細胞から作製した心臓組織シートを簡便に積層化する手法を確立したと発表した。また、このシート15枚を積層化し、細胞が生きた状態で厚さ約1mmにすることにも成功した。この研究は、同大学医学研究科の松尾武彦客員研究員、iPS細胞研究所/再生医科学研究所の山下潤教授らの研究グループによるもので、成果は同年11月20日に、英科学誌『Scientific Reports』で公開された。

 重症心不全患者の心臓へ細胞を移植する治療では、移植の効果を高めるために、拍動の源である心筋細胞だけでなくその他の心臓を構成する細胞も十分に補い、心臓組織構造として再構築することが望ましい。この点でiPS細胞は、大量に増殖させた上で多様な心臓を構成する細胞群を効率的に分化誘導し、十分量供給できる可能性がある。しかし、心臓に直接注入移植あるいは細胞シートなどにより移植された細胞でさえも、長期にわたって十分な量の細胞が心臓に留まる(生着する)効率が低いという問題があった。

 同研究グループは、これまでの研究で、ヒトiPS細胞から心筋や血管細胞を含む心臓組織シート(3枚重ねたもの)を構築し、ラット心筋梗塞モデルに移植。心機能の回復と移植細胞の効率的生着を確認した。しかし、従来の手法では、内部まで酸素や栄養が行き渡らず、細胞が弱ってしまうため、3層重ねるのが限度だった。

 そこで今回、ゼラチンハイドロゲル粒子を利用して、細胞シートを簡便に多数積層化する手法を確立した。そして、マウスES細胞から作製した心筋・血管などを含む心臓組織シートをゼラチンハイドロゲル粒子を挿み込みながら15枚積層化し、厚さ約1mmにすることにも成功した。ゼラチンハイドロゲル粒子を加えたことで、シート間に培養液が行き渡り、シート内の細胞は1週間培養した後もほぼすべてが生き残っていた。ゼラチンハイドロゲルを挿み込む手法は簡便で、数時間で15枚重ねることができる。

 また、ラット心筋梗塞モデルに積層化したシート5枚を移植すると、移植後3カ月という長期にわたり、血管形成を伴った厚い心臓組織として生着していた。同時に、心筋梗塞により障害された心機能の回復も認められた。

 この研究成果は、従来の心臓細胞移植の問題を克服し、長期にわたり機械的に心臓収縮をサポートできる「再生心筋」を供給し、重症の心不全を治療する方法の開発につながるとしている。他の臓器・組織にも幅広く応用可能だ。今後は、ヒトiPS細胞からも同様の積層化シートを形成する、ブタなどヒトに近い動物モデルを含め有効性や安全性を確認するなどして、近い将来、積層化したヒト心臓組織シートを製品化し、重症心不全治療に広く用いることを目標としている。

photo 培養1週間後の心臓組織シートの組織切片。A:単純に心臓組織シートを5枚重ねたもの。B:心臓組織シートの間にゼラチンハイドロ粒子を挿み込みながら5枚重ねたもの。C:心臓組織シートの間にゼラチンハイドロ粒子を挿み込みながら15枚重ねたもの。右下のスケールバー:50μm(A、B)、100μm(C)

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