「ロボット新戦略」が生産現場にもたらす革新とは?産業用ロボット(4/4 ページ)

» 2015年05月14日 09時00分 公開
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システムインテグレーターに必要な“チャレンジ”

 このシステムインテグレーターに新たに求められる“チャレンジ”とは何でしょうか。言葉として示すとこれは「Easy to Use」や「プラットフォーム化」となるわけですが、ここは少し議論が必要です。

 システムインテグレーターにとって価値のある「Easy to Use」とは、「Easy to Operate」を示すのではなく「Easy to Create」を示しています。誰もが同じように簡単に達成できる結果に、競争力はありません。「独自の経験や得意技を最小のロスタイムでシステムに反映する」というイメージです。

 最小ロスタイムとは、システム検討・設計の段階でのカットアンドトライ時間、現地でのティーチングを含むシステムセットアップ時間の短縮化です。これを実現することを考えた場合、エンジニアリング環境や使用機材といった道具立てと、独自の経験や得意技を蓄積する技術論に課題があるといえます。道具立ての共通基盤がプラットフォームになるわけですが、単純に共通的に使える道具という意味ではなく、あくまでも独自性を組み込むために必要最低限の共通基盤です。いずれにせよ「システムインテグレーターにとって『Easy to Create』なロボットやオプションとは何だろう」という議論が1つのスタートポイントになると思います。

 また、技術論としては最近総論的に語られることがなくなってきた「生産技術」も1つの視点になるかもしれません。総論的に語られることが少なくなった理由は、生産対象ごとの特異性が大きくなり、語る必要がなくなってきたという点が理由に挙げられます。ただし、ロボットのシステムインテグレーションようにさまざまな生産対象でも有用な技術として、生産設備としての合理性を評価する技術、システムのコストパフォーマンスを定量化する技術などを考えた場合、「メタ生産技術」が欲しいところです。「ロボット新戦略」でも言及の多い人工知能は、機械を賢くするという視点はあると思いますが、実はこのあたりの地味な問題解決に組み合わせることで意外な価値を生むかもしれません。

ロボット産業の国際競争力とロボット新戦略

 2015年に終了する中国第12次5カ年計画に含まれる「智能製造装置産業発展計画」では、代表的智能製造装置であるロボット技術開発の加速が掲げられており、中国ではロボット産業が着実に立ち上がってきています。この状況において、日本は将来にわたっても世界最強のロボット供給国であり続けることができるのでしょうか。明白な答えや簡単なシナリオはありませんが「ロボット新戦略」の中でも最も具体的な成果が問われるところだといえます。

 「どんな機能・性能のロボットが有用か」については、各ロボットメーカーのマーケティングにもとづく製品企画能力・開発能力・製造能力の勝負で、国策に頼るところではありません。しかし、単独のロボットメーカーでは進めにくい活動、他業種との横断的取り組みや共通の事業インフラ整備、共通技術要素技術の強化などが国策のポイントとなるといえます。ロボット産業をとりまく、要素からシステムまでの広がりを整理し、国際競争力で評価すると図5のようなスマイルカーブになります。

photo 図5:ロボット関連技術と国際競争力(クリックで拡大)

 今のところまだ、日本製ロボットと中国製ロボットにはパフォーマンスの差がありますが、いずれ一進一退の国際競争をすることになると思います。国際競争力を見いだす軸として、右向きのシステムエンジニアリング軸については先述しましたので、ここでは左向きの材料・要素技術軸について考えてみましょう。

 例えば、材料を見てみましょう。従来は一般に流通している実績のある材料で安定した性能を引き出すことで、信頼性の面でもコスト面でもメリットを生み出してきました。しかし、最近の自動車では、軽量化のためにさまざまな部品に自動車向け樹脂材の採用が進んでいます。ロボットでの素材の年間使用量は自動車より何桁も小さく、専用の樹脂材を開発するのは難しいように思えます。

 ところがあらゆる産業機械で軽量無潤滑の歯車が採用できたらどうでしょう。ロボットのアーム材に電力も信号も伝達できる複合材を使ったケーブルレスロボットはどうでしょう。ケーブルレスロボットであれば、無線の特殊な応用として捉える切り口もあります。つまり材料や部品レベルでの革新を追求すればまだまだ発展の余地があるということです。いずれにせよ、ロボット新戦略は、産業機械全般に波及効果のある材料・要素技術の研究開発について、異業種横断的な協業で取り組むチャンスでもあると考えられます。

異業種間の横断的なアライアンス

 日本はあらゆる要素技術や産業カテゴリーについて、バランス良く高い技術レベルを持ち合わせていることは誇るべきことだと考えます。システムエンジニアリング軸と材料・要素技術軸の取り組み双方で特徴的なのは、異業種間の横断的なアライアンスがあって初めて実現できることです。

 システムエンジニアリング軸では、「ロボットメーカー」「システムインテグレーター」「エンドユーザー」のアライアンスでしたが、材料・要素技術軸では「システム」「エレメント」「マテリアル」のアライアンスです。ここでいう「システム」は複合技術であるロボットを指しますが、「エレメント」は例えば機構要素、「マテリアル」は例えば素材、となります。高い技術レベルを保持する異業種間のアライアンスがあって初めて可能な取り組みという点に日本独自の国際競争力が発揮される可能性があると思います。

 ロボットとしては圧倒的に普及している製造業用ロボットでも、市場規模は日本製で年間12万台、全世界でも20万台で、実はまだまだ少ないといえます。中小企業への普及も低く、大企業でも限定的な現場でしか使いこなせていないのが実態です。

 「もっと安ければ普及する」や「もっと簡単に使えれば普及する」「もっと性能が良ければ普及する」など、それぞれの要因で影響はあると思いますが、生産財というのは「目的とする生産にベストフィットするかどうか」が最大の普及要因だといえます。ベストフィットかどうかは、機能、性能、コスト、使い勝手、信頼性その他のさまざまな指標を、その製造現場の特質に合わせて評価することになります。製造業においてロボット新戦略に期待するのは「良いロボット」の実現だけではなく「ベストフィットソリューション」への到達のための、技術や仕組みの高度化だといえるでしょう。

筆者プロフィル

小平 紀生(こだいら のりお)

日本ロボット工業会 システムエンジニアリング部会長

(前ロボット学会会長、三菱電機 主席技監)


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