京都大学物質-細胞統合システム拠点の見学美根子教授らは、脳が発達する過程で神経細胞内のエネルギーを維持するメカニズムを解明した。
京都大学は2015年4月16日、同大物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の見学美根子教授らが、脳が発達する過程で神経細胞内のエネルギーを維持する仕組みを解明したと発表した。同研究成果は、同月7日に米科学誌「The Journal of Neuroscience」で公開された。
細胞は、糖を分解する過程でミトコンドリアによって作られるATP(アデノシン3リン酸)というエネルギー分子を用いて、さまざまな代謝反応を推進する。神経細胞は神経回路を形成する際に多くのATPを消費するが、急激に容積と複雑性が拡大する脳の発達過程で、神経細胞全体にATPがどのように供給されるかは不明だった。
同研究グループでは、小脳プルキンエ細胞という大型ニューロンの発生過程に着目。プルキンエ細胞をガラス皿上で培養し、神経突起が枝分かれしながら成長していく過程を観察したところ、成長する突起にミトコンドリアが運搬され、突起全長に分布した。一方、この運搬を阻害すると、細胞の中心でミトコンドリアが機能していても、突起形成不全が起きたという。このことから、ミトコンドリアが突起内に運搬されてATPを現地生産することが、突起の成長に不可欠であることを証明した。また、突起内でのATPレベルの維持には、ミトコンドリアの酸素呼吸と、ATPをより遠くへ運ぶクレアチンシャトルの連動が必要であり、解糖系の寄与は小さいことも明らかにした。
さらに、クレアチンシャトルで末端まで運ばれたATPは、細胞骨格アクチンが突起を成長させる力に変換されるが、ATPが不足すると、アクチン代謝が減速したという。つまり、突起の伸長によるATPの消費を抑え、ATP濃度を細胞全体で一定に保つ機構を備えていることが分かった。
同研究成果は、脳神経細胞がエネルギー供給系を組み合わせてATPレベルを維持すメカニズムを明らかにしたもので、虚血による神経細胞のダメージや、ミトコンドリア変性を伴う神経変性疾患の病態の解明や治療法の開発につながる可能性があるとしている。
(A)プルキンエ細胞にミトコンドリアを標識する分子と赤色蛍光を発する分子を発現させ観察すると、複雑に伸びた突起全体にミトコンドリアが分布している様子が分かる(左)。顕微鏡観察像を3時間置きに撮影し、突起の成長を追跡すると、伸びて行く突起にミトコンドリアが運ばれる様子が観察される(右)。(B)正常な細胞では発達した突起全長にミトコンドリアが分布している(左)。ミトコンドリアの突起への輸送を止めると突起が成長できなくなる(右)。
成長する神経突起では、近くまで運ばれたミトコンドリアが生産したATPエネルギーをクレアチンシャトルという機構でさらに末端まで運ぶ。このATPはコフィリン分子を制御して細胞骨格アクチンが突起を成長させる力に変換される。ATPが不足するとアクチン代謝が止まり、突起の成長でATPを消費させないようにする。
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