IoT団体の多くが標準を作り、そこからソリューションにつなげる手法を採るのに対し、ヨーロッパ発の「IP500 Alliance」はハードウェアありきというユニークなアプローチでエコシステムを形成しようとしている。
今回ご紹介するのは、珍しくヨーロッパはドイツ発祥の団体である「IP500 Alliance」である。ただIP500 Allianceが珍しいのは、単にヨーロッパ発祥というだけではなく、その団体の目的が他のものとちょっと異なっているからということもある。
どの辺が、という話をする前にまずはIP500 Allianceの紹介をしたいと思う。実は2015年2月には日本においても「IP 500 Alliance Japan」が発足しており、これにあわせて記者説明会なども行われた。この会場でIP500 Allianceそのものの詳細説明があったので、まずはこちらから。
IP500 Allianceは、無線を利用したIoTデバイスの接続に関する標準化団体ということになる。これが他の、例えばThread Group(IoT観測所(3):メッシュネットワークをキーにIoTへ進む「Thread Group」)と異なるのは、既にターンキーソリューション(すぐに利用できる特定用途向けシステム)が準備されていること、それと認証団体まで巻き込んでいる事だろう(Photo01)。
IP500 Allianceが対応する無線は俗にPAN(Personal Area Network)と呼ばれるエリアで、物理層としてはIEEE 802.15.4を利用する。ではこれを利用して何をつなぐか、というと幅広い範囲での用途が考えられるが、当初ターゲットにしているのは煙感知器とか侵入検知など、非常に限られた範囲の製品である。
これはIP500 Allianceの目的の中にInteroperability(インターオペラビリティ:相互運用性)が入っており、今はそのインターオペラビリティを保障できる範囲がまさにこうした製品しかないから、というあたりが実情に近い(Photo04)。ちなみに、実際にどんな具合にこれがつながって動くか、という例はこちらの動画の1:50秒あたりからを見てもらうのが早いかと思う。
ただ、こうした製品においては、必ずしも既存のPANの範囲ではカバーしきれないケースが出てくる。ZigBeeなどの場合、消費電力は少なめだが転送速度は低いし到達距離も少ない。特にビルオートメーションを考えた場合、必ずしも理想的な状態で電波が届くとは限らないから、見通し距離で数百mほどの到達距離がないとうまく接続できない、なんて事も考えられる。
IP500は500mの到達距離を確保するというところから来ているようで、もうその意味ではPANというよりはBAN(Building Area Network)をターゲットとしているとも言える(Photo05)。これをどうやって実現するかというと、物理層はIEEE 802.15.4-2006準拠としつつ、その上位の変調方式に独自のものを利用しており(具体的にどんな?という話は説明が無かった)、これで転送速度を稼ぐ形としている。
また到達距離に関しては、IEEE 802.15.4で定められたうちSub 1GHz帯のみを主に利用する事で解決する形だ。Sub 1GHz帯ならば到達距離は長くなるし、障害物などにも相対的に強い。その一方でデータレートは低くなるが、それは変調方式でカバーする形になる。ネットワーク構成は典型的なメッシュネットワークのそれであり(Photo06)、1ホップあたりのレイテンシは50ms未満だとか。通信は非同期なので待機中に無駄に消費電力を食うことなく、またダイナミックにノードの追加/削除が可能で、しかも通信に冗長性があるために、ある回線がダウンしても通信できなくなる恐れが少ないというわけで、このあたりはZigbeeなどにかなり近い。
ではこうしたテクノロジを使うとどんな事が可能になるか?という実例の1つが下の図(Photo07)となる。要するに火災報知機だったり、非常ボタンだったり、といった様々なデバイスからの通報を、複数の建物をまたぐように経由して、携帯電話などの自動発信システムにつなぐというもので、通報の内容に応じて適切な相手に通報できるようにできるというもの。もう1つの例は、例えば病院の中における患者の管理だったり設備の管理だったりというものを実現できるというものだ。
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