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» 2014年10月31日 09時00分 公開

アメーバ経営がJAL整備工場にもたらした変革いまさら聞けない 「アメーバ経営」入門(3)(2/2 ページ)

[内山幸士/KCCSマネジメントコンサルティング,MONOist]
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リーダー教育と会議による意識変革

 意識改革に向けた取り組みとして、まずリーダー教育を実施しました。JALECの全ての管理職が集まり、リーダーとして持つべき意識、価値観や考え方を学びます。リーダーの役割として「部下の心をつかみ、部下の力を引き出さねばならないこと、率先垂範して自己犠牲を払い、かつ正しい判断を行う」という指導を徹底的に行いました。

 また、会議の内容も刷新しました。毎月業績報告会を開催し、前月実績の分析、当月予定の作成、その達成に向けた取り組みの定着を行いました。

 特に業績報告会(アメーバ経営会議)は、一切の言い訳が許されない厳しいものです。例えば「トレードオフ(何かを達成するためには何かを犠牲にしなければならないという関係性のこと)」「月ずれ(計画変更)」という言葉がこれまでの会議で当たり前に使われていたのですが、これを禁止としました。

 「何かをするには何かが犠牲になる、だからできない」など、できない理由を理路整然と述べるというのは企業経営において利益を拡大するという本質から外れた行動です。数字の説明に終始せずに、そこに「どういう意志を持って行動した(する)のか」という、マインドの部分を重視して、指導していくことがポイントでした。

 その中でも、部長以下課長クラスのリーダーシップの発揮には特に力を注いだといいます。一流の技術者としての判断基準・価値観に加えて、経営者の判断基準・価値観を持つべく訓練する。つまり、自分の職場の数字(収支や品質)を、リーダー自ら役員・幹部に説明し、さらに部下たちに対しても説明する。こうした行動を繰り返すことで経営数字を理解し、現場と経営数字がつながり、何にどう手を打てば経営が改善されるのか、リーダーを中心に現場が考えるようになりました。この点が非常に大きいと考えます。

 なお、職場単位ごとの全員参加のミーティングでは、職場によってシフト勤務もあるため、全員が集まることが困難な場合があります。このような職場の場合、同じ内容のミーティングを複数回行うといった工夫が見られました。それくらい全員参加を大事にしたということです。

アメーバ経営導入によって生じた変化

 以上の取り組みを通して、JALECで変化が表れてきました。例えば、まず身近なところでは、ウェス(機械の油などを拭き取るための布)の再利用があります。ウェス自体は1枚17円ですが、4000人の社員が使えば、1日で数十万円という金額になります。これを再利用する仕組みを作ることで、経費の削減を実現しました。意識改革により、この手の経費削減のエピソードは、それこそ山のように生まれています。少額な経費であると軽視するのではなく、少額の積み重ねが大切であるということを実践したといえます。

 次にコスト高の主要因の1つである部品在庫の問題に手を付けました。「部品在庫を潤沢に持つとはどういうことなのか」を現場の整備士が経営という観点で理解したことで、工場にある重整備中の航空機から使用しても問題ない部品を取り外して別の航空機に利用するといった動きが生まれました。

 これは「取り外し」と「取り付け」の作業が発生するため、現場作業の観点から見ると完全に二重作業となります。しかし、整備計画に対する納期の範囲で、かつ就業時間内での作業であれば、在庫削減による経営面での効果から「やるべきだ」という判断を下したといいます。さらに副次的な効果として、航空機の機材品質向上を生み出し、整備回数の削減効果も生み出したといいます。一見手間に思える二重作業が結果として、コスト削減のみならず、整備士の育成の機会も創出することにもつながりました。

 逆に「あえて仕事をしない」という選択で成功を収めたケースもありました。エンジンの整備は会計上、作業が完了した時点で費用が計上され、仕掛かりの段階では費用計上されません。このような会計の内容も現場のリーダーは理解し、納期ギリギリまで仕事を止めておきます。そうすることで実際の作業やモノの動きと、会計上の差を可能な限り小さくすることに成功しました。さらに心理的な面でも、あえて作業を留め置かれると、現場は早く作業を終わらせたくなり、結果的に仕事に対するポジティブな感情が生まれます。そこで、いざゴーサインを出すと、素晴らしい仕事が生まれ、結果的に生産性の向上にも寄与しました。

世界に通用するエアラインMROへ

 さらに自主独立の強い経営という意味では、コスト競争力を高め、外部収入の獲得にも力を入れることが重要となります。これはアメーバ経営コンサルティングにおいて、KCMCからも訴えてきた点です。この点については、営業部門のみならず、整備工場の責任者あるいは間接部門(製造業で言えば生産管理部門)が代表して営業交渉に同行したり、整備工場が外部売上目標を掲げたり、という活動が生まれました。全部門を挙げて、収入拡大に向けた取り組みも行うようになったのです。

 2012年9月にJALは再上場し、JALECもその一翼を担ったといえます。ただ、JALECでは「アメーバ経営の浸透とJALグループの真の再生はまだ道半ば」だと話しています。アメーバ経営の考えの下、「謙虚にして驕(おご)らず、さらに努力を」を理念として掲げ、今もなお「世界に通用するエアラインMRO」を目指し、多くの改善活動に取り組んでいます。(連載終わり

⇒前回(第2回)はこちら
⇒連載「いまさら聞けない 『アメーバ経営』入門」バックナンバー


筆者プロフィル

内山幸士(うちやま こうじ) KCCSマネジメントコンサルティング 経営システム第1事業部 東京コンサルティング2課 課長

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2004年、KCCSマネジメントコンサルティング入社。アメーバ経営コンサルティングに従事。製造業、建設業、サービス業などを中心に約30社のコンサルティングを経験。ここ数年では、JALグループの再建を担当。




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