「アメーバ経営」を製造業の運営にどう当てはめるかという手法と事例を解説する本連載。第2回となる今回は、アメーバ経営で目指すべき“3つの目的”を紹介する。
会社更生法を適用した日本航空(以下、JAL)の復活に大きな貢献を果たしたことから注目を集める「アメーバ経営」。その「アメーバ経営」を製造業の運営にどう生かすかということを解説する本連載。前回の「『アメーバ経営』とは何か」では、アメーバ経営の本質を紹介しました。
今回は、アメーバ経営で目指すべき“3つの目的”を軸に特に製造業におけるアメーバ経営導入によって期待できる成果や変化について、解説します。
⇒連載「いまさら聞けない 『アメーバ経営』入門」バックナンバー
まず、アメーバ経営の3つの目的ですが、以下のように定めています。
まず、1つ目の「マーケットに直結した部門別採算制度の確立」です。ポイントは実際にモノを作る製造現場が、マーケットプライスに敏感に反応し、下落圧力に耐えうる体質になっているかどうか、ということです。
多くの企業では「現場のコスト意識は強い」とか「コスト削減活動は活発である」と自信を持つケースが多くあります。特に大手ほどこの傾向が強く「現場にマーケットプライスを意識させるなんてとんでもない。製造現場は改善活動で十分」と考える企業が多く見受けられます。このような企業では「組織力の強化を実現したい」としながらも、新たな考え方、手法の導入には慎重かつ、抵抗も大きく、結局はカイゼン活動の延長でしか、製造現場の活性化は図られていないのが実情です。
一方で、アメーバ経営では全ての部門に「経営の実践」が要求されます。いくら製造現場が血のにじむような努力をし、コストを大幅にカットしたとしても、それ以上にマーケットプライスが下落し、市場そのものが縮小するなどして採算が取れなければ、経営としては成り立ちません。
筆者が担当した小集団改善活動に力を入れているある企業の例では、ある部門が大変な改善を進め、計画生産量換算で何億円もの成果を上げたとして表彰されたケースがありました。しかし、それを市場と照らし合わせてみた場合、その市場が縮小して不良在庫の山ができており、結果として会社の業績悪化の要因となってしまったのです。
このようなケースを含め、企業として明確にしておかなければならないのは、経営という視点で事業の良しあしを見て評価し、社員の仕事の成果についても同様の判断基準で評価することです。経営会議などに出席すると「赤字だけど○○支店はよく頑張っている」とコメントしている経営トップがいますが、経営陣の発言としてはあまり感心できるものではありません。確かに、赤字の責任は個々の社員にはないのかもしれません。しかし「よく頑張っていることは認めるが、赤字である以上はまだ足りていない。場合によっては大幅な体制変更や商品構成の変更、代理店の活用など大規模な改善が必要」などの指導をすべきです。
このように、まずは判断の目線を経営という軸で合わせた上で、マーケットに呼応し事業発展を実現できる「現場の組織力」を向上させることが、アメーバ経営の導入により実現したい第1の目的です。
そしてこのことを現場の隅々にまで浸透させるための仕掛けが必要になります。アメーバ経営では部門間取引として、社内売買という社内取引の仕組みを用いますが、この取引価格については当事者間で値決めを行うことを基本としています。経営者感覚が十分ではないリーダーが値決めで揉めるようなケースでは上位者が仲裁し値決めを行うこともありますが、当事者同士で決定するプロセスそのものが、マーケットに対して自分たちがどのような位置に存在しているのかを理解し、現状課題の共有を促すことにつながります。
実際の値決めは、掛かるコストと売価とのバランス、前回単価、同様製品単価、外注との比較などによって実施されますが、特に売価に合わせることは必須事項になります。この値決めのプロセスからコストダウンの検討が始まることになります。技術開発部門などの専門部門がコストダウンのイニシアチブを取る場合に比べ、現場が主体となって見積もりの段階からマーケットプライスをベースにコストダウンのアクション取り始めるという点で段違いに差があるといえます。
ここで、アメーバ経営における部門別採算制度のモデルを使い、その仕組みを紹介します(図1)。
顧客から売上という形で受領する収入は、完成品に責任を持つ「製造部門A」(基本的に製造の最終工程)が受け取ります(製造出荷額)。この収入から営業部門に営業手数料(営業口銭)を支払うことで営業に収入を分配します。また、製品完成に必要な工程である「製造部門B」に対しては、「製造部門B」の工程完了時点(中間品)で社内売買取引により収入を分配します。
さらにリーダーは、収入を増やすという行動を起こす必要があります。具体的には、常に営業の動向を気にしつつ、開発や試作にも積極的に協力し、受注施策にも積極的に関わる、という点などです。このように、全ての製造部門が「稼ぎ最大、経費最少」の経営を実践するということが、マーケットに直結した部門別採算制度を確立するということです。
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