ウェアラブル端末とはその名の通り身体に装着し、独自のインタフェースで操作できる機器である。現時点では大きく以下の5つの形態に分類できる。
スマートグラス型とHMD型の違いが不明瞭ではあるが、ここではメガネ型やメガネに装着するものをスマートグラス、頭上に装置やサポートが必要なものをHMDと分類する。
5種類の端末の中で、先行的な研究が数多く実施されているのはヘッドマウントディスプレイ(HMD)である。研究開発や生産現場での適用を前提に、VR(ヴァーチャルリアリティ)領域でさまざまな研究が行われてきた。しかし、2014年現在、その実用化は限定的である。例えば、製造業において研究チームや生産チームに属するメンバーの多くが、HMDを活用して実務に取り組んでいるという例はほとんどない。理由はさまざま存在するが、やはりHMDの重量や大きさが、現場業務環境に向いていないのではないだろうか。
最近Facebookが買収したことで有名となった米Oculus VRのOculus Riftなどが典型であるが、HMDは、完全に外界からの視界を遮断する没入型と呼ばれる形態では非常に大きな効果を発揮する。HMDが提供する3D画像を見るようなシミュレーション用途などでは有効だが、しかしそのニーズは限定的だといえる。
現場で求められているものは、通常の視界は確保しつつも補助・支援情報を視覚的に知らせる仕組みで、かつ作業者が動いても不都合のないデバイスである。
その意味で、最近ビジネス面で伸びを示しているものがリストバンドとスマートウオッチである。その名の通り手首に装着するスマートデバイスで、一般的にスマートフォンなどの補助デバイスと連動して動作する。値段も約1万円から、と非常に手頃である。ここ数年は年率10%以上で拡大すると見込まれている。今後の販売台数の予測は諸説あるが、2015年度には国内で100万台、世界で2000万台を超えることが確実視されている。
スマートウオッチにはバイタルデータを検知するセンサーが内蔵されているものが多い。それをワイヤレス通信でスマートフォンに取り込み、それをクラウド上にアップロードして、セルフケアに役立てたり、ヘルスケアサービスの提供を受けたりという利用方法だ。製造現場で考えた場合、作業員の健康状態をモニタリングする用途では役立ちそうだが、スマートウオッチのディスプレイサイズは構造的に限定されるため、対象部品や作業の支援情報を視覚的に受け取る目的では、必ずしも理想的とはいえないだろう。
スマートグラスは、現時点ではGoogleが米国でβ版として販売している「Google Glass」が最も有名だ。ただ、その他にもセイコーエプソンが発売した「Moverioシリーズ」、米Vuzixの「M100スマートグラス」など、参入企業は増えている。以下、それぞれの特徴を表1で示す。
片眼型および両眼型のものが存在するが、どちらも半透過型の画面を配置し、通常の視野に補助情報を追加する仕組みになっている。操作についても、Google GlassやVuzixは音声入力をサポートしており、手による操作を必要としない。GPS機能による位置情報発信も可能だ。現場で必要となるハンズフリーの操作性、携帯性で考えると、デバイスとしては現時点でこれがベストの選択肢と考えられる。スマートグラスの市場は国内ではまだまだであるが、2015年頃から急速に拡大し、2016年度に国内で100万台、海外で2000万台を超えるという予測が示されている。
以上、日本の「現場」が抱える問題点と、その解決策として有効な施策となり得るウェアラブル端末の可能性を紹介してきたが、いかがだっただろうか。後編では、これらのウェアラブル端末を活用した製造現場における先進事例と、さらにIoTなどを組み合わせた将来像について紹介する。
(後編へ続く)
大学院工学研究科卒業後、IT企業を経てPLMベンダーに就職。在職中10数年に渡り、製造業(自動車関連、電機精密系)顧客を対象に機械系3次元CADやPLMの販売促進、業務改革コンサルティングを行う。その後株式会社 クニエに転職。PLM領域を中心に製造業を対象としたコンサルティングに従事している。
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