製造現場や保守現場、建築現場など、多くの「現場」の救世主として注目を集めるウェアラブル端末とIoT(モノのインターネット)。前編では、ウェアラブル端末とIoTの現場活用における期待と、それを集めるようになった背景を解説した。今回の後編はこれらを活用した現場における先進事例と将来像について紹介する。
大きな問題を抱えた日本の「現場」の救世主として注目を集めるウェアラブル端末とIoT(モノのインターネット)。前編では、「現場」の抱える問題点とその解決の糸口としてウェアラブル端末とIoTが果たす役割について解説した。
【後編】の本稿では、実際にウェアラブル端末やICTを活用した「現場」の先進事例を紹介するとともに、そこから描かれる将来像について解説する。
スマートグラスの現場での活用は始まったばかりだ。しかし数多くの未来志向の検討事例が示されている。公開されている中で最も未来志向なものの1つにGEのジェットエンジン整備作業を対象とした事例がある。これはYouTubeで公開されている(動画1)。
この動画で示されている現場のシナリオでは、スマートグラスを活用する上でのさまざまな要素が凝縮されている。以下に列挙する。
これを見ると、現場における主要な操作がハンズフリーでサポートされていることがお分かりいただけるだろう。特に、作業の進捗状況をその場で表示し、システムに反映できることは大きい。作業者は現場を離れずかつ正確に「実情」を「デジタル」化して、管理者を初め多くの人と共有することが可能である。
日系企業でも、既に報道されている通り、JALが野村総合研究所と共同でスマートグラスを機体整備に利用する実証実験を始めている(関連記事:Google Glassで飛行機を整備、JALとNRIがウェアラブルデバイス活用の実証実験)。その他にも、富士通とメタウォーターは、ビッグデータ分析やウェアラブル端末を利用した水道施設の保守点検の実証実験に取り組む(関連記事:ビッグデータ分析とウェアラブルで保守業務効率化――富士通、浄水場で実証実験)。
また新日鉄住金ソリューションズから、生産現場において作業の効率化や技能伝承などの目的でスマートグラスを活用する効果の導入検証サービスについて発表された(関連記事:ウェアラブルデバイスが変革する生産現場・保守現場の未来像)。徐々に現場作業におけるウェアラブル端末活用の可能性が認知されつつあるといえる。
その他に、スマートグラスの現場活用の可能性として、映像の記録がある。今でも工場内の作業のモニタリング、分析のために、定点カメラで作業員の作業状況を映像で記録するシステムが存在する。ウェアラブル端末を使うことでこれを一段階高めることができる。例えば、ウェアラブル端末を活用することで、個々の作業員の視野に映る作業状況、機械の操作、部品の取り扱いを記録することが可能である。このように収集された情報によって、作業性や安全性を向上させることが期待されている。
【前編】で日本の現場に対する危機について述べたが、そのうち「技術伝承」の側面で貢献できそうなのが、ウェアラブル端末による遠隔地コミュニケーションだ。スマートグラスでは、テレビ会議システムのように相手の顔を見ながら、視覚と音声でコミュニケーションを取ることが可能である(図1)。
製造現場などにおいて熟練者の数が減少する中、さまざまな現場の指導を実地で行うことは難しくなってきている。また、必要に応じてそのようなエキスパートのノウハウを活用したい場合も、今までは活用する術がなかった。スマートグラスを活用することでこの障壁を取り除ける可能性が生まれている。また視野を共有するようなことも、スマートグラス上で動作するアプリを開発することなどで実現可能だ。Hyla EyesはVusixのスマートグラス上でこれを実装している(動画2)。
このような仕組みを使えば、視野を共有し、必要なガイダンス用の補助マークを画面上に表示することが可能となる。まさに現場での指導やトレーニングにうってつけのソリューションといえるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.