日本IBMは、クラウド環境でのCAE活用をアピールする「エンジニアリング・ウィズ・クラウド」セミナーを開催。クラウド環境における解析作業が、実際に業務レベルで利用できるパフォーマンスを持つことを訴えた。
日本IBMは2014年6月13日、都内で「エンジニアリング・ウィズ・クラウド」セミナーを開催。同社のクラウド基盤「SoftLayer」のアピールを行った他、同基盤でCAEツールをテスト数多くのCAEベンダーが登壇し、クラウド環境における解析作業が業務レベルで利用できることを訴えた。
CAEなどの解析作業には、スーパーコンピュータなど高機能なコンピューティング環境が必要になる。以前に比べると必要な設備のハードルは下がってきたとはいえ、中堅規模以下の企業にとっては負担が大きく導入が難しい状況だった。クラウド環境が広がってきた数年前には「CAEをクラウドで使おう」とする動きが広がったが、当時のクラウド環境では、十分なパフォーマンスを発揮することが難しかった。
しかし、コンピューティングパワーの向上に加え、クラウド環境の整備が進んだことにより、十分な性能を有したオンプレミス環境とそん色ないパフォーマンスをクラウド環境で発揮できるようになりつつある。これらの流れを背景に、IBMではCAEを含めた設計・開発環境をクラウド環境で提供する「エンジニアリング・ウィズ・クラウド」を提唱。これらのクラウド基盤としてIaaS(Infrastructure as a Service)の「SoftLayer」を提供している。今回はこれらをより広く訴えるために多くのCAEベンダーとともにセミナーを開催した。
日本IBM インダストリー事業本部 製造事業部 オートモーティブ営業部 営業部長 理事 吉村英雄氏は「クラウド初期では、パフォーマンスが十分に発揮できないケースが多かった。またパフォーマンスが出る時とそうでない時の“揺らぎ”が大きかった。SoftLayerは、仮想化に加え、ベアメタル(物理サーバ)で独自環境が作れる。これらを活用することで、設計・開発現場にとって使いたいパフォーマンスがクラウド環境で出せるようになった。新しい領域で新しい価値が生まれていることを訴えていきたい」と語る。
SoftLayerはもともと独立クラウドベンダーだったが、2013年7月にIBMが買収し、IBMのクラウドサービスに加わった。現在世界中に14カ所のデータセンターを持ち、2014年末には日本にもデータセンターを開設予定だという。その特徴となるのが、物理サーバをクラウド内で利用できるということだ。
クラウドコンピューティングは、仮想化技術により物理サーバに縛られない拡張性を実現できる点などが魅力だが、1つの物理サーバに複数のユーザーのサーバ環境が同居する状況になるため、アクセスの集散状況によって、パフォーマンスが一定しないという課題があった。そのためCAEなど高度な演算処理を必要とする場面では、計算時間が一定せず、実際の現場では使いにくい状況があったという。
日本IBM グローバル・テクノロジー・サービス事業 スマーター・クラウド事業 クラウド・マイスターの安田智有氏は「SoftLayerは、物理サーバを構築できるため、パフォーマンスの“ゆらぎ”の発生を抑えることができる点が従来のクラウドサービスと異なる。既存環境と同等のパフォーマンスを実現できるようになり、加えてクラウド特有の拡張性や早期導入可能な点などのメリットがある。従来コストの面で負担が大きく、CAE環境を構築できなかった製造業でも、構築可能な環境を提供できる」と話す。
実際に、同イベントにはSoftLayerによるCAE利用のテストを行ったCAEベンダーが数多く参加。JSOL、クレディスト、オートデスク、IDAJ、エムエスシーソフトウェア、ヴァイナスの担当者がそれぞれ、自社の取り扱うソフトウェアのSoftLayer上での動作状況、現状で残されている課題などについて語った。
JSOLでは、電磁場解析ソフト「JMAG」と衝突解析ソフト「LS-Dyna」のSoftLayer上でのテストを行った。「JMAG」を担当するJSOL エンジニアリングビジネス事業部 電磁場技術グループ マーケティングマネジャー 鈴木雄作氏は「クラウド基盤上でも解析は十分可能なことが分かった」と話す。また、「LS-Dyna」を担当するJSOL エンジニアリングビジネス事業部 伊田徹士氏は「サーバのレスポンスは思っていた以上で効果的に利用することができた。大きなストレスなく環境構築やベンチマークができた。小中規模の並列処理の効率は十分だ」と評価した。一方で課題として「ソフトウェアのインストールや計算環境構築には専門の知識が必要で、OSイメージなどを希望したい」と話している。
樹脂流動解析ソフト「Moldflow」のテストを行ったオートデスク 技術営業本部 シミュレーション スペシャリストの梅山隆氏は「必要な時に、最新の高速多コアCPUを活用することができ、最新のGPGPUを利用して解析できる点はメリットだ」と語った。
流体解析ソフト「CONVERGE」と「iconCFD」をテストしたIDAJでは、興味深い状況が発生したという。「実は社内サーバと、今回のSoftLayerでのテストの速度を比較したところ、社内サーバが負けるという事態が発生した」とIDAJ 解析技術事業部 取締役副社長の石川正俊氏は苦笑する。
石川氏はSoftLayerを使うメリットについて「いつでも最新の設備を利用できるのは大きなメリット。特に負荷変動に柔軟に対応できる点は多くの企業にとって利点となるのでは。エンジンなどの大規模計算を行うのにどうしても利用のピークが出てくる。クラウド基盤を活用することで投資のリスクを抑えてピーク対応を取ることができる」と述べる。一方で問題点として「立ち上げの設定が大変である点は問題だ。また解析物のデータを転送する速度が遅い点は負担となる。この点については国内データセンターの早期立ち上げに期待している」(石川氏)という。
構造解析ソフト「MSC Nastran」でテストを行ったエムエスシーソフトウェア マーケティング部 部長 松本英志氏はSoftLayerの魅力について「物理サーバを選べるのは魅力。また製品に合った構成をタイムリーに組めるのは魅力だ。今回は稼働を中心に確認したが、次はパフォーマンスをテストしたい」と語る。熱流体解析ソフト「FaSTAR」と「Helyx-SAS」のテストを行ったヴァイナス 技術一部 副部長 福地健氏も「必要な性能の振れ幅の大きいオープンCFDは、クラウド基盤との相性がいい」と話している。
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