ここ数年、「ジュネーブモーターショー」の直前に前夜祭を開催しているDaimler(ダイムラー)。今回(2014年)披露したのは、インターネットを活用した包括的なサービス「Mercedes Me」とアップルの「CarPlay」、そして「CLクラス」の後継となる「Sクラス クーペ」だった。
毎年3月初旬に開催される「ジュネーブモーターショー」。世界中の自動車関係者の注目を集める同ショーだが、ここ数年は、開催直前にVolkswagen(フォルクスワーゲン)とDaimler(ダイムラー)が前夜祭を開催するのが常となっている。モーターショーのプレスデーは一般的には2日間だが、ジュネーブモーターショーでは3日間あるようにも感じられる。
フォルクスワーゲンが傘下の12ブランドの発表を行う大々的な「グループナイト」を開催するのに対して、ダイムラーは限られたゲストに向けたエクスクルーシブなプレゼンテーションを行う。この機会でしか展示がないものなどもあり見逃せない。
今回の前夜祭では、ジュネーブモーターショー2014の目玉となる「Sクラス クーペ」に先んじる形で、「Mercedes Me」なるインターネットを活用した包括的なサービスを発表した。同社会長のディーター・ツェッチェ氏は冒頭のスピーチで、「ライフスタイルの変化に伴って、クルマをはじめとするモビリティとの付き合い方も変化しており、ダイムラーとしてその変化に対応していく必要性がある」と語った。
最後の“インターネット不在の地”といわれてきた自動車も、最近は安定した回線を確保できるようになり、いよいよスタンドアロンではいられなくなったということだ。Mercedes Meは、専用の無線通信技術を用いる従来のテレマティクスサービスではなく、インターネットにつながることを前提にしたサービスを提案する。「モビリティ」、「コネクティビティ」、「サービス」、「ファイナンス」、「インスピレーション」を5つの柱とし、クルマの中でも外でも、継ぎ目なく提供される統合サービスだという。
具体的には、自宅ではPCを使って燃費やメンテナンスなどの車両情報をチェックしたり、乗車する際には車室内が快適な温度になるようにスマートフォンでエアコンを設定したり、GPSでクルマの居場所を検索したりといったことが可能。ユニークなことに、ユーザーの意見をインターネットを通じて集めることで、新たなサービスの開発につなげるという仕組みも備える。
もう1つ会場を沸かせたのが、新型「Cクラス」に、Apple(アップル)の「CarPlay」を搭載して行ったデモンストレーションだった。詳細は個別の記事に譲るが、「iPhone」をつなぐことで、車載機側でiPhoneのアプリを利用できるようになるというものだ。車載機のディスプレイにアプリの画面を表示してコマンドコントローラなどで操作できる他、車載機で利用するための最適化なども行うという。
これらMercedes MeやCarPlayといったコネクティビティ関連の発表はプレビューのみだった。ジュネーブモーターショー2014の会場で、本来の主役であるSクラス クーペをかすませないための配慮だろう。その名の通り、Mercedes Benz(メルセデス・ベンツ)ブランドの最高級セダンである「Sクラス」のクーペ版で、実質的には「CLクラス」の後継に当たる。過去にはSクラスの派生車種としてクーペが存在していたが、1990年代後半、3代目Sクラス(W140)のフェイスリフト時に、クーペを別途CLクラスと名付けて独立させて以来、個別の車種として扱われてきた。
ところが今回、あえて“Sクラス クーペ”と名乗るのには以下のような理由がある。
ダイムラーの最上級ブランドだったMaybach(マイバッハ)の廃止に伴い、Sクラスが、名実共にフラッグシップの座に君臨することになる。また、近年のメルセデス・ベンツブランドのラインアップの広がりもあり、フラッグシップとなったSクラスの位置付けも強化する必要が出てきた。そこで、CLクラスとしていたクーペ版Sクラスの名称を、あらためてSクラス クーペとすることになったのである。
「CLクラスと比べて、質感を高めたインストゥルメントパネル、左右のLEDヘッドランプに配置した総計94個のスワロフスキーなど、細部に至るまで品質を突き詰め、高級感を高めました」(ダイムラー プロダクトグループ ラージカーズ ウヴェ・アーンストベルガー氏)
実際の装備を見回しても、CLクラスと比べてラグジュアリー感を強調したのが分かる。一番の注目は、左右のLEDヘッドランプに配置した94個のスワロフスキーになるだろう。加えて、ルーフの面積のうち3分の2を占めるパノラミック・ルーフは、透明度を変更できるギミックを持たせているのも新しい。オプション設定される「マジック・ボディ・コントロール」により快適な乗り心地を提供するなど、既視感のない装備の採用もラグジュアリー感の演出に一役買っている。
「セダン同様の快適さを提供しつつも、クーペならではの特徴として、ラグジュアリー感と走りに磨きをかけました。Sクラスのセダンにもオプション設定されているマジック・ボディ・コントロールで、コーナーを曲がる際の乗り心地を高めるなど、走りの面でもスポーティネスを提供します。エンジン回転数が高まると、排気音が変化するような設計も採用しています」(アーンストベルガー氏)
今回発表した「S500 クーペ」に加えて、排気量4.7l(リットル)のV型8気筒ツインターボエンジンを搭載する「S600 クーペ」や、AMG版の「S63 クーペ」といったハイパフォーマンスモデルも近日中にラインアップに加わる予定だ。
川端由美(かわばた ゆみ)
自動車ジャーナリスト/環境ジャーナリスト。大学院で工学を修めた後、エンジニアとして就職。その後、自動車雑誌の編集部員を経て、現在はフリーランスの自動車ジャーナリストに。自動車の環境問題と新技術を中心に、技術者、女性、ジャーナリストとしてハイブリッドな目線を生かしたリポートを展開。カー・オブ・ザ・イヤー選考委員の他、国土交通省の独立行政法人評価委員会委員や環境省の有識者委員も務める。
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