ドイツが描く第4次産業革命「インダストリー4.0」とは?【前編】インダストリー4.0(3/4 ページ)

» 2014年04月04日 11時00分 公開

インダストリー4.0を実践するノビリア

  欧州最大のキッチンメーカーであるドイツのnobilia(ノビリア)の事例を紹介しよう。

 ノビリアは、毎日2600セット、年間58万セットという、桁違いの生産量を誇る高級キッチンメーカーだ。しかも、ノビリアの扱う製品は、全てが特注仕様である。これらを人件費の高いドイツ・ウェストファリア地方で生産しており、競争力を維持するには生産の自動化が前提条件となっている。

 実際にノビリアの自動生産方式はかなり先進的だ。生産工程は、材料を部品に加工する「前工程」と、部品を完成品に組み立てる「後工程」とに分けているのだが、それぞれで高度なIT活用が行われている。

 前工程では、部品や用途ごとに異なる組み立て用の穴位置を全てオラクルで動作するデータウェアハウスで管理する。例えばドリルの穴開け時のスピンドルモータの電流値や電力、モータやワークの振動、穴の形成過程と切りくずの形状や温度など、ありとあらゆる生産工程のデータがMESによって記録され、部品品質の最適化を行うために活用されている。

 一方、後工程では、在庫された加工済み部品からERP・MESが注文ごとに必要な部品を選定し、ピッキングされた部品に個体識別用のRFIDタグやバーコードが付けられる。この時点で生産工程とERPが直結することになり、各部品が個々で識別できるようになる。「全ての部品がアイデンティティーを持つ」ようになるのだ。つまり、この部品がどの顧客から注文を受けたキッチンのどこに収まる部品で、いつどこに届けられる必要があるのか、を部品ごとに把握できるようになるわけだ。これにより組み立て工程のリアルタイムでの最適化と不具合発生時の個別の原因究明が効率化できる。

 工場は全行程にわたって、ベッコフオートメーションのソフトウェアPLC/NCが動作する540台ものPCコントローラで自動制御している。工場全体での1日当たりのデータトランザクション数は100万を超え、これをトランザクション当たり100ミリ秒程度の時間で処理するという。

 ノビリアでは、自社のこの生産方式を「Manufacturing by Wire」と呼んでいる。後工程で全部品にアイデンティティーを持たせており、工程を動的に組み替えるための下準備ができているため、前述のダイナミックセル生産にも発展が可能だ。

 モノづくりで完成品ビジネスを展開するドイツの中堅企業が、生産拠点をドイツ国内に残しながら、生産品質を維持しつつ、生産コストを下げて国際的な価格競争力を維持し、世界70カ国に向けて製品の出荷を行うことができるのは、このように生産の自動化に地道に取り組んできた結果である。ノビリアの2つの工場で働く従業員は、わずか2500人だ。その人数で1300億円近い売上高を誇る。従業員当たりの売上高は5200万円に達し、その額はインテルとほぼ同額と言えばその競争力を実感してもらえるはずだ。

ノビリアの先進的な製造風景

多彩なクラスタで産官学が新たなプロセスを開発

 「Industrie 4.0」への動きが高まるとともに、ノビリアへの注目が増しているのは、“「Industrie 4.0」のハシリ”ともいえる、このインテリジェントな自動生産システムを、1990年から構築していたからだ。

 早期から先進的な取り組みを行っていたことから、前述の「Industrie 4.0 Platform」が支持する最大のクラスタ「It's OWL(Intelligent Technical Systems OstWestfalenLippe or East-Westphalia-Lippe)」に採択されている。この「It's OWL」が取り組むテーマは「システムの自己最適化」「人と機械の連携」「インテリジェントネットワーク」「エネルギー効率」「システムエンジニアリング」など多岐にわたる。これをさらに細分化した47のプロジェクトがあり、174もの企業・大学・研究機関が参画している。産官学で共同研究開発を推進する構図だ。

 ドイツ政府はこれに5年間で56億円の投資を行っている。参画している企業が出資する84億円の投資と合わせ、合計140億円規模の活動となっている。こうしたクラスタやワーキンググループが数多く集まって「Industrie 4.0 Platform」が形成されている。

 これらの多彩なプロジェクトの成果として、革新的な製品やモノづくりのプロセスが生み出されることが期待されているということだ。

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