エネルギー事業の構造改革は、ドングルPCの活躍のしどころともいえる分野です。前回述べた通り、TVは家庭(ホーム)をスマート化するサービスのための主要な出力先となります。その中で一番大掛かりなサービスは、BEMS(Building Energy Management System)やHEMS(Home Energy Management System)と呼ばれるエネルギーを制御するシステムに基づくものです。
エネルギー制御の試みは以前から行われていましたが、東日本大震災の発生を契機に、本格的な仕組みの検討・導入に向けた動きが起こっています。BEMSはビル、HEMSは住宅(ホーム)を対象としたエネルギー管理システムです。家やマンションから都市に至るまで、エネルギーを徹底的に把握・制御することは今や重要な国家事業です。“見える化”と呼ばれる、家庭の電力使用量を観察できるサービスが既に始まっていますが、それを端緒として、あらゆる情報をTVに表示させるために、ドングルPCあるいはそれに類するデバイスが使われることでしょう(図4)。
なお、エネルギー制御はエネルギー自由化と密接な関係にあります。エネルギーを自由化するという営みは以前から行われており、既に売電などのスキームもできています。ただ、IT化という点ではまだまだ課題が残っています。市場競争の導入という大きな目的がありますから、自由化という側面からも積極的な開発がなされることでしょう。
エネルギーは昔から世界の重要な話題ですが、その世界の経済、特にシェールガスによって米国の景気が回復し、日本にも良い効果をもたらしています。十分に停滞していた日本経済は溜め込んでいた力を噴出させ、勢いを付けて急成長する可能性があります。批判も少なくない急進的な成長戦略も、全体に良いスパイラルにおいては効果的に作用するように思えます。
良い時は全てがうまく回るもので、2020年、東京オリンピック・パラリンピックの開催まで決まってしまいました。100年に一度といっても過言ではない好景気の条件が整っています。そういえば、これまでオリンピックはTVの普及や技術革新のきっかけとなってきました。こういった大きな流れには上手に乗ってしかるべきです。TVの一部としての役割をも担っているドングルPCであればなおのことです。
本連載の冒頭でも説明しましたが、ドングルPCは固定的なビジネスを持つデバイスではありません。Googleやソニーが示しているように、ドングルPCの要件はそれを手掛ける人の目的によって全く異なります。ChromecastとBRAVIA Smart Stickは形こそ何となく似ていますが、特に性能面での要件はハードウェアから全く違います(その理由は目的が異なるからです)。
ともあれ、今、ドングルPCが絶好の立ち位置にいることは確かです。しかし、ハードウェア要件から確定していない、非常に“柔らかいデバイス”であることも事実です。つまり、ドングルPCを扱うには、確固たる目的を持ち、柔軟でありながらも雑音に翻弄されない姿勢が求められます。ドングルPCは全体の構成からすると一要素にすぎませんから、全体をケアする目線も必要です。
さて、次回は最終回となります。陥りやすい落とし穴とその対策に触れながら、“究極のドングルPC”について考察します。お楽しみに! (次回に続く)
金山二郎(かなやま じろう)
株式会社イーフロー ソフトウェア開発部 部長。Java黎明(れいめい)期から組み込みJavaを専門に活動している。10年以上の経験に基づく技術とアイデアを、最近はAndroidを利用したソリューションに活用している。
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