自動運転について政府関係者はどのように考えているのだろうか。経済産業省(経産省)の自動車課で電池・次世代技術・ITS推進室の課長補佐を務める山家洋志氏に聞いた。
和田氏 自動運転がメディアで取り上げられ、総理大臣の安倍晋三氏が言及するなど、話題になっている。経産省としては、自動運転に対してどのようなスタンスにあるのか。
山家氏 ご承知の通り、日本再興戦略が2013年6月14日に閣議決定され、その中のテーマの1つとして、「安全運転支援システム、自動走行システムの開発・環境整備」が盛り込まれた。
その目的は、自動車のさらなる安全性の向上である。昔に比べて減っているとはいえ、2012年の交通事故死者数は約4400人に上る。これは深刻な事態だ。また、エネルギー・環境の観点からも、自動運転は燃費の向上に役立つのではないかと期待されている。経産省としても、自動運転の技術開発を進めて行きたいと考えている。
和田氏 自動運転の公道実証試験の場所として愛知県の名前が挙がっているが、具体的な計画が進んでいるのか。
山家氏 日本再興戦略の中では、運転支援システムの高度化計画を2013年8月末までに策定することになっている。政府としては、まずはその検討を進めることになる。実証試験の計画についても、その場で検討されるものと考えている。
和田氏 このような特区を他の地域にも設定する計画はあるか。
山家氏 現時点では何も決まっていない。
和田氏 自動運転については、運転の自動化の度合いによって、いくつもの水準・ランクに分けられていることが多い。政府が取り組む自動運転には、例えば人が乗っていなくても運転が行われる、無人運転のレベルも含まれるのか。
山家氏 自動運転という言葉からは、究極的にはそのような無人運転のレベルも含まれるように感じる。しかし、自動運転と言ったときに思い浮かべる絵姿は、人によってさまざまであり、整理されていない。このため、自動運転の定義についての整理が必要だろう。無人運転というのも技術的にはまだまだ先のものではないかと思う。
和田氏 自動運転を実施するに際し、経産省として何か法整備が必要になると考えているか。
山家氏 自動運転に関して法整備が必要だとの意見もあるようだが、どういうところで法令との関係が問題になりうるのかという部分については、必ずしも細かく議論されていないように感じている。より具体的に議論した方が建設的なのではないか。
和田氏 自動運転の実証試験や、自動運転に必要なセンサーの開発に、補助金や支援金を出す用意はあるのか。
山家氏 企業がどういう領域で競争していて、国はどういう領域を支援すべきなのか、いろいろと検討しているところだ。現時点で決まっているものはない。
和田氏 自動運転車両に対する補助金はどうか。
山家氏 これも同様に、現時点では何も決まっていない。
自動運転について、ロボットメーカー、センサーメーカー2社、さらに政府関係者に話を聞いた。インタビューから浮かび上がってくるのは、まだ本格的に着手していないものの、これから本気になって開発を行えば、数年先には技術的に実現可能な領域まで自動運転技術を到達させられるという見方だ。しかし、実際のところは本格的に着手していないわけで、現時点では“食わず嫌い”になっているようにも感じられる。
冒頭でも述べたが、自動運転に対する自動車メーカーの取り組みは分かりにくい。しかし、このような状況だからこそ、ロボットメーカー、センサーメーカー自らがトンネルを掘り、自動運転の実用化を進展させて行っていただきたい。そうすれば、どこかで自動車メーカーの取り組みと交差し、光明を見いだせるのではないだろうか。
自動運転を具体化するには実証試験が欠かせない。多くのプレーヤー、例えば自動車メーカー、大学、ロボットメーカー、センサーメーカー、行政などが参加する実証試験が早く動き出すことを期待したい。今回調査できなかった領域については、引き続きフォローしていく予定である。
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
1989年に三菱自動車に入社後、主に内装設計を担当。2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。2007年の開発プロジェクトの正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任し、2009年に開発本部 MiEV技術部 担当部長、2010年にEVビジネス本部 上級エキスパートとなる。その後も三菱自動車のEVビジネスをけん引。電気自動車やプラグインハイブリッド車の普及をさらに進めるべく、2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立した。
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