他社に先駆けて国内でEVの市販を始めた三菱自動車は、もともと2011年から3カ年の計画でEVレースカーによるパイクスピークへの参戦を予定していた。しかし、2011年は東日本大震災の援助活動にEV関連のリソースを全て振り向けたこともあり、参戦を1年延期していた。増岡氏は、「当初の計画では1年目にエレクトリッククラスで優勝、2年目に総合優勝を目指すことになっていた。つまり、2年目となる2013年は、総合優勝を目指せるようなEVレースカーが必要であり、そのために開発したのがMiEV Evolution IIだ」と語る。
総合優勝を目指す上での目標走行タイムは9分30秒。2012年から1分の短縮となる。MiEV Evolution IIは、最高出力100kWのモーターを前輪に2個、後輪に2個搭載。合計400kWなので、昨年のi-MiEV Evolutionの240kWから66%増えたことになる。さらにリチウムイオン電池も、昨年のi-MiEVと同じ電池セルから、先行開発した高容量の電池セルに替えた。総容量は19%増の50kWhとなっている。このため、時速0〜100kmの加速時間は2秒台と極めて速く、「かつて経験したことない加速」(同氏)を実現できた。
コース内に150個以上のコーナーがあるパイクスピークでは、加速性能だけでなく、コーナーを高速かつ滑らかに走行できるような制御性能も必要になる。そのために活用したのが、「ランサーエボリューション」などで知られる車両運動統合制御システム「S-AWC」である。増岡氏は、「コーナーを曲がるときに、ステアリングの切り方に合わせて、4個のモーターそれぞれの回転数や、制動力を適切に制御する。これにより、どんなに高速走行していても、ステアリングを操作する際の重さをほとんど感じなくなった」と述べる。
ただし、こういった高度な制御機能の開発には時間がかかる。「1人のプログラマーが付きっきりで開発して半年はかかる」(増岡氏)が、レースカー開発ではそんなにのんびりと待つことはできない。そこで、制御機能開発の期間短縮に役立ったのが、dSPACEのラピッドプロトタイピング用ハードウェア「MicroAutoBox II」である。モデルベース設計で用いる制御モデルをそのまま実装できる特徴を生かし、2週間ほどで制御機能開発を終えた。さらに、実車に搭載しての試験も1週間ほどで完了したという。
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