「突き抜ける加速感」を実現するために、インホイールモーターは大幅な改良を加えた。SIM-LEIとSIM-WILの開発では、最大トルクが700Nmのインホイールモーターを使用していたが、SIM-CELではモーターの内部構造を見直すなどして、最大トルクを850Nmまで高めた。「永久磁石の保持力をより高いものに置き換え、巻き線の巻き数も45ターンから65ターンに増やした」(シムドライブ)という。
これによって、4輪合計の最高出力は260kW、最大トルクは3400Nmとなり、毎時0〜100kmの加速時間は4.2秒、加速度は0.7Gとなった。この加速性能は、「慶応義塾大学で開発した8輪のインホイールモーターEV『エリーカ』と同等の加速性能を、SIM-CELは4輪で実現したことになる」(清水氏)という。
インホイールモーターを含めた電動システムで興味深いのが、内燃機関車のアイドルストップシステムに相当する、停車時のインバータやモーターの待機電流を大幅に低減する機能である。これによって、満充電からの走行距離を20km押し上げる効果が得られた。324kmに対しての20kmなので、走行距離を6%程度向上できた計算になる。
なお、SIM-CELのリチウムイオン電池はリチウムエナジー ジャパン製で、容量は29.6kWhとなっている。
ここまで説明した、高い空力性能、軽量化、インホイールモーターの効率向上によって、内燃機関車の燃費に当たる電量消費量は91.2Wh/kmとなった。国内で市販されているEVの電量消費量でトップを記録していたマツダの「デミオEV」は100Wh/kmである。
SIM-CELの開発には、スマートハウスを販売する積水ハウスやオフィスビルを手掛ける三井不動産なども参加している。これらの企業が求める、スマートハウスやスマートシティと連携する機能がスマート・トランスポーテーションである。
スマート・トランスポーテーションでは、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーとEVをより積極的につなげるために、「SIM-iBee」というエネルギー利用サービス体系を用いている。SIM-iBeeは、再生可能エネルギー側に設置したスマートメーターと、スマートハウスや店舗、SIM-CELなどEVに搭載したスマートメーターを紐付けて、クラウド上で管理する。
例えば、太陽光発電からEVに指定した時間帯に充電したい場合には、クラウドが条件をマッチングして組み合わせを決めて電力を融通する。EVに充電している電力のうち、太陽光発電や風力発電、系統電力の割合がそれぞれどの程度かといった可視化も可能である。さらに、ある店舗にEVを駐車している間に、EVから店舗に電力を一定量供給すれば何らかのサービスが得られるようなことも想定している。
SIM-iBeeのコア機能として開発したのが、スマートハウスなどに設置するエネルギー充放電装置と、SIM-CELに搭載する接続装置である。接続装置は、EVから家庭用電源への電充放電を行う電力変換器であるとともに、クラウドとのやり取りを担う通信装置の役割も持っている。
この他、SIM-CELとスマートハウスを結ぶ追加装備として、スマートコンテナ自走装置も披露した。スマートコンテナ自走装置は、その名の通り自走するコンテナである。例えば、通常は家庭用の蓄電池として使用するが、EVで遠出する際には自走してトランク内に入り、補助電池ユニットにもなる、といった利用法が想定されている。
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