レアアースの高騰によって注目されている永久磁石を使わないモーターの1つに、スイッチトリラクタンス(SR)モーターがある。東北大学は、アキシャルギャップ構造の採用によって、SRモーターの課題だったトルク性能を永久磁石モーターと同等レベルまで引き上げた。
電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の中核部品である走行用モーターは、高い出力や大きなトルクが求められることもあって、永久磁石モーターが広く採用されている。永久磁石モーターの磁石には、高温でも大きな磁力を維持できるようにジスプロシウムなどのレアアースが不可欠である。
しかし、近年になってレアアースが高騰しており、価格低減が強く求められているEVやHEVのコストアップ要因になっている。そこで、EVやHEVの走行用モーターとして、ジスプロシウムの使用量を減らした永久磁石モーターや、永久磁石を安価なフェライト磁石に置き換えたモーター、永久磁石そのものを使わないモーターなどの開発が進められている。
スイッチトリラクタンス(SR)モーターは、永久磁石を使わないモーターの1つである。鉄心と巻き線から構成されるステータ(固定子)を使う点では永久磁石モーターと同じだが、ローター(回転子)は鉄心のみで永久磁石を組み込んでいない。永久磁石モーターでは円筒状になっているローターの表面を突極構造にすることで、ステータの電磁石の磁束によって鉄製の突極部が安定した状態に移動しようとする「リラクタンストルク」を利用して回転する。
SRモーターは堅固な構造と高温での安定動作という特徴を持つものの、同サイズの永久磁石モーターと比べるとトルク性能で劣る点が課題になっていた。
東北大学は2012年12月3日、現行のEVやHEVの走行用に用いられている永久磁石モーターと同レベルのトルク性能を有するSRモーターを開発したと発表した。このSRモーターの最大の特徴は、モーターの構造を一般的なラジアルギャップ型からアキシャルギャップ型に変更したことである。
ラジアル(径方向)ギャップ型は、モーターの回転軸と同じ方向に向かってローターとステータのすき間(ギャップ)が存在する構造である。さらに、ローターが内側にある場合はインナーローター型、外側にある場合はアウターローター型と呼ばれている。一方、アキシャルギャップ型は、2枚のローターでステータを挟み込んだ構造になっており、モーターの回転軸に対して垂直方向に、ローターとステータのすき間が存在する。
同大学大学院工学研究科教授の一ノ倉理氏、准教授の中村健二氏、助教の後藤博樹氏らによる研究グループは、鉄心に鉄-コバルト系の高磁束密度磁性材料を用いることで、ラジアルギャップ型SRモーターのトルク性能の改善を目指していた。しかし、大量に使用するコバルトのコストが課題になっていた。
そこで、SRモーターの構造の見直しによりトルク性能の改善を図ることとした。永久磁石モーターの量産製品に採用されているアキシャルギャップ型の構造を用いれば、ローターに一般的なケイ素鋼板を用いる場合でもSRモーターのトルク性能を高められることが分かったという。
同研究グループは、直径が266mm、長さが130mm、ステータの極数が18個、ローターの極数が12個のアキシャルギャップ型SRモーターを試作し性能を確認した。同モーターの最高出力は7kW弱、最大トルクは300Nmとなった。
EVやHEVの走行用モーターのトルク性能を比較する際に用いられる、巻き線電流密度が20A/mm2のときのトルク密度は、現行のHEVに用いられている永久磁石モーターと同等の39.6Nm/l(リットル)を達成した。このトルク密度は、同サイズで同極数のラジアルギャップ型SRモーターの約1.5倍に当たる。
今後は、このアキシャルギャップ型SRモーターを、後輪のインホイールモーターとして組み込んだ電動バスを用い、実走行試験などを通じて実用化に向けた検討を進める方針である。SRモーターを車両に搭載する場合、高速回転時に発生する振動が問題になるが、独自の制御方式の採用によって振動を抑制することも目指している。
なお、今回の研究成果は、日立製作所日立研究所との共同研究に基づくもので、アキシャルギャップ型SRモーターの試作についても、日立製作所の協力を得ている。
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