製造業×品質、転換期を迎えるモノづくりの在り方 特集

タグチメソッド活用事例集でコツをつかもう本質から分かるタグチメソッド(4)(4/4 ページ)

» 2010年10月29日 00時00分 公開
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検出力を向上させる工夫

 いままで実例を使って、エネルギーや均一性、転写性などを手掛かりに考えるコツを説明してきました。最後に、測定自体の検出力を向上させる工夫を紹介しましょう。

 データに差が出てこなければ、最終的な評価には使えません。少ないデータ量でも確実に差を出すには、以下のようなコツが必要なのです。

1)立ち上がり、立ち下がりを観測する

 モータや自動車などは、立ち上がり段階――つまり一番負荷が大きい状態で測定するのがコツです。エアコンやヒーターなどもそうでしょう。一定状態を維持する仕事量は少ないですが、立ち上がりの状態では大きな仕事をしなければならないため、実力の差が際立ちます。

 一方、飛行機の場合は、立ち下がり――つまり着陸時の方が実力の差が出やすいはずです。飛行機事故が離陸時より着陸時の方が多いことからも、それはいえるでしょう。

2)入力信号を大きくしてみる、または小さくしてみる

 1)と近い考え方ですが、大きな負荷を掛けて実力を見るために入力信号を大きくする手もよく使います。逆に、小さな信号にすると別の問題が検出されることもあります。プロゴルファーは、短いショットも長いショットもフォームが乱れませんが、実力のないアマチュアは、力んでフォームが乱れてしまいます。

3)1サイクルをもっと分解してみる

 同じような動作が繰り返される機能の場合は、基本的な1サイクルにのみ着目し、「検出の解像度」を高める方法も有効です。ギアによる力の伝達の場合も、ギアの1歯が移動するプロセスが基本ですから、そこを解析すればいいはずです。それならシミュレーションもできるはずです。

 電気回路でも、トランジスタが多用されていれば1つずつのトランジスタの実力が全体の品質を決めているはずです。

 工作機械でも、回転する刃物の1刃が基本ですから、加工時の消費電力波形を細かく解析することは有意義なのです。

 ◇ ◇ ◇

 以上のように、基本は「普通は測定するような状態ではない」状態で測定することです。一般的に、測定する状態とは「良い結果が出ることを期待している」測定作業だからです。普段では見えない真の実力を見るには、「普段ではない状態」――つまり意地悪な状態で測定することがコツです。

 今回でタグチメソッドの解説を終了します。タグチメソッドが目指していることをひと言でいえば、技術者が成長しなければ技術が良くならない、技術が良くならなければ品質は良くならない、品質が良くなければコストダウンもできない、ということです。

第1回 本当の「タグチメソッド」を誤解していませんか?

 ◇ ◇ ◇

 本稿の事例に使用した文献は、下記参考文献リストのURLで見ることができます。なお、Webサイト上では詳細内容は公開されていませんので、すべてを通読するには品質工学会から資料を購入する必要があります。

⇒前回(第3回)はこちら
⇒本連載の目次はこちら

筆者紹介

長谷部 光雄(はせべ みつお)
品質工学会会員、日本信頼性学会会員

株式会社リコーで技術開発センター所長を歴任後、技師長および顧問として同社のグループ会社全体を対象に品質工学の指導と推進を担当。
主な著書に『ベーシックタグチメソッド』(日本能率協会マネジメントセンター、2005年)、『技術にも品質がある』(日本規格協会、2006年)、『品質力の磨き方』(PHP研究所、2008年)など多数。


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