バイクなどの風防にはプラスチック製の部品が使われています。外観形状も重要であり、かつ機械的な強度も要求されるこのような部品では、それらを両立させる成形条件を見つけ出す必要があります。この課題に変わった方法を採用した例が報告されています(第18回品質工学研究発表大会 2010年 論文発表49より)。
そのやり方とは、プラスチック成形品内部のひずみを可視化する方法に偏光板を利用したのです。偏光面を直交させた2枚の偏光板の間に成形品を置くと、内部にひずみがある部分だけ光が透過する性質を利用した方法です。学問的にはシュリーレン法と呼ばれます。外見的には問題がなさそうな成形品でも、内部にひずみが隠されていることが分かる便利な方法です。
この内部のひずみは、経年劣化で変形したり透明度が下がったりする不具合を誘発します。従って成形加工技術の基本機能は、内部に均一な充填(じゅうてん)密度を作り出すことなのです。どのような形の製品であっても内部の密度が均一になっていれば、そりやひけなどの形状不良、時間とともに変形が進行する劣化問題も少なくなるからです。
ですから、偏光を利用した評価とは、内部の均一性を可視化することで経年劣化も含んだ総合的な品質を評価できる優れた方法といえるのです。
プラスチック成型の均一充填:
要求される機能:成形品のどの場所でも、材料密度が均一であること
・入力:特になし
・出力:各部の密度、比重、偏光などの光学特性
・ノイズ:部品形状、原料の材質
・SN比:出力特性の場所的時間的安定性
均一性に注目しシミュレーションだけでプレス加工の新工程開発を行った例もあります。その報告では、開発期間を従来の4分の1に短縮できたと報告されています。
プレス成形という加工法は、型抜きや穴開けばかりでなく曲げなどの成型加工も同時にやってしまう方法です。自動車のトランスミッション部品で普通は工程を分割せざるを得ない高精度な部品を、分割しないで「一発成形」を可能にしてしまった例があります。
驚くことに、その開発はシミュレーションだけで行ってしまったのです。なぜそんなことが可能なのでしょうか。
プレス成形とは、金属材料をプレス工程内で流動させ、希望の形に成形するプロセスです。従って、材料が流動して移動した場所でも、加工前と同じ密度で充填されていればいいと考えられます。その状態が、内部応力も少なく一番良い加工条件といえるでしょう。
もちろん金属材料の微小部分の密度を測定することは困難です。透明なプラスチックのように偏光で観察できるわけでもありません。しかし、シミュレーションは可能です。各部分の密度や残留応力が計算できます。だからこそシミュレーションで実験したのです。
最終的には金型を作成して確認しましたが、通常なら数回は繰り返す金型の修正作業が一度も必要なかったそうです。そのため開発期間は、従来の4分の1で済んでしまったそうです(第14回品質工学研究発表大会 2006年 論文発表58より)。
機能を考えるコツ(その2)
密度などの特性値に注目し、その均一性を追求する
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