タグチメソッドの効率化戦略が“ひと味違う”理由本質から分かるタグチメソッド(3)(1/4 ページ)

タグチメソッド的思考法をより具体的に紹介。ロバスト性評価、パラメータ実験とその目的を考えるとこの手法の魅力が分かるはず

» 2010年09月30日 00時00分 公開

 いま、モノづくりは大きな転換期を迎えています。そんな中で、タグチメソッドまたは品質工学と呼ばれる考え方が多くの企業から注目されています。同時に、多くの誤解も存在します。タグチメソッドは開発設計部門の技術者を対象として、品質管理(QC)の限界を超えてリコール撲滅を狙う考え方なのです。(編集部)

 前回の記事で「タグチメソッドの基本的な考え方」の1から3までを紹介してきました。本稿では前回の続きとして、4から説明を続けます。

⇒本連載の目次はこちら

4. タグチメソッドの基本的な考え方(2)―効率化の戦略―

前回のおさらい

 未然防止に向けての課題は、以下の2つでした。

  1. 未知の不具合現象を、どう予測するか(未経験問題)
  2. 評価に必要な時間とデータ数の壁をどう克服するのか(効率化問題)

 このうち、1. の未知の問題に対する戦略はすでに説明しました。今回は2. の効率化問題について解説します。

 具体的にはノイズ因子と直交表の活用による実験数の軽減です。いくら立派な理論であっても、実施のために手間と時間がかかっては何にもなりません。限られた製品開発期間中に実践できなければ、実用上の意味がないからです。効率化は大切な項目なのです。

効率化のための手段

 未知の不具合現象を未然に防止するには、理想を追求することがポイントです。従って、理想からのずれが少ない方法を開発する方法論が必要です。それには、

  1. 理想からのずれをきちんと測定できること
  2. 対策アイデアを短期間に評価し、効果のあるアイデアを選別すること

 の2つが必要になります。しかし従来の方法で考えれば、2つとも多くの時間と手間が必要な作業です。ですから、なんらかの効率化の手段が必要となります。

 そこで提案する効率化の方法が、次の2項目です。

  • 理想からのずれを測定 ⇒ ノイズ因子の活用(ロバスト性評価)
  • 多くのアイデアを評価 ⇒ 直交表の活用(パラメータ実験)

 2番目のパラメータ設計は有名です。内容は知らなくても名前を聞いたことのある人は多いでしょう。しかし、パラメータ設計の基礎には、実は一番目のロバスト性評価の考え方が必要なのです。ですから、まずロバスト性評価の説明から入ろうと思います。

  • ロバスト性評価……SN比で理想からのずれ量を評価する
  • パラメータ実験……直交表の活用でアイデアを評価する

ノイズ因子とは何か

 ロバスト性評価にはノイズ因子が必要になります。ノイズ因子とは、タグチメソッドを理解するキーワードですから、きちんと説明しておきましょう。

 ノイズとは好ましくない雑音のことをいいます。従ってノイズ因子とは、雑音を生み出す原因のことです。タグチメソッドでは、製品の機能を低下させる(つまり好ましくない状況を作り出す)可能性のある因子を非常に重要視します。

 例えば、電圧の低下や急激な変動、不慣れな使用者による変則的な操作、経年劣化に伴う摩耗や変質などです。製品に加わるストレスといってもいいでしょう。技術的なデータを採取する場合に、データのバラツキ(誤差)を生み出す原因でもあるので、誤差因子と呼ぶ場合もあります。つまり、ロバスト性を低下させる因子としてのノイズ因子、ストレス因子、誤差因子などは、すべて同じ意味になります。その例を示してあります。

ノイズ因子の例
周囲環境の温度や湿度の変化
電源の電圧変動や放電ノイズ
タバコの煙やオイル蒸気の存在
不慣れな使用者による乱暴な操作
設置場所の傾き、外部からの振動
連続的な使用、長期間の放置後の使用
赤外線や紫外線、オゾンなど
弾性や硬度など材質劣化、摩耗……

通常は、これらノイズ因子が複合的に、かつ長期間繰り返し存在する


 このようにさまざまなノイズ因子が存在する使用状況では、普通の工業製品は狙いの理想状態を維持することは難しくなります。従って、不具合現象が発生しやすくなるのです。このようなノイズの影響を受けにくい性質を、ロバスト性と表現することは説明しました。タグチメソッドとは、ロバスト性の優れたつまり高い品質を有する製品を開発する方法論なのです。

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