人・設備・モノのムダを見つけて改善する。製造業の原価低減に欠かせない3つの要素のムダを発見するために、インダストリアル・エンジニアリングにおける改善の技術を紹介していく。
「方法改善の技術」の連載も今回で6回目となりました。前回までは「方法改善の手順」を4回に分けて説明してきましたが、昨今、IE関連の市販書籍も少なくなってきましたので、少し丁寧に説明したつもりですが、いかがでしたでしょうか?
さて、今回から、改善の「ものの見方」の基本ともいえる「動作経済の原則」についての解説を始めます。現場改善に取り組む際の必須事項ですので、実践を通してシッカリと身に付けて自分のものにしていただくことを期待しております。
動作経済の原則は、作業を最も効率的に行うためのノウハウ集ともいえます。「身体部位の使用についての原則」「作業場所の配置についての原則」「設備・工具の設計についての原則」の3つに分類されています。
また、動作経済の原則をベースとした「モーション・マインド(Motion Mind)」という、改善に対する感性というべきものがあります。モーション・マインドは、動作の良しあしに関する「勘」のようなもので、ムリ・ムダ・ムラ動作を感知するセンスともいえます。日常の作業において習慣化した作業方法も、その内容を詳しく分解して検討してみると、意外にムリ・ムダ・ムラが多いものです。常に改善点が無意識のうちに発見できるまでに、問題発見の常識を身に付けておくことが大切です。動作経済の原則を深く理解して、改善実践を積み重ねていって、自分のものにした人だけに備わる感性です。併せて、モーション・マインドも高めていってください。
動作経済の原則は、ギルブレス(Gilbreth,Frank Bunker:1868.7-1924.6)によって疲労の少ない動作についての提唱があり、その後、多くの学者や実務家によって整備され、「動作経済の原則(the principles of Motion economy)」として法則化がなされたといわれています。ムリ・ムダ・ムラのない作業の動作を実現しようとするものです。
動作経済の原則は、動作の改善にずっと以前から用いられてきたものです。この原則は、長い間に少しずつたまってきたもので30項目以上もあります。この原則は、動作の好ましい姿をさまざまな面からいい表したもので、系統的、組織的になってはいませんが、動作、ひいては作業の改善に便利なもので、いままでに行われていた作業改善は動作研究を使用しない場合でも、よくよく子細に見てみると、意識的あるいは無意識的に、この原則を足場としていることが多いものです。
先にも説明しましたが、この原則が頭に染み込んでおり、いろいろな場合に、その場に適した原則がすぐに浮かんでくる人のことを「モーション・マインドがある人」と呼んでいます。多くの作業改善の専門家は、このモーション・マインドの優れた人であり、それらの人たちの多くは、ほとんど無意識的に、いわゆる「常識」によって動作の改善をしています。この場合も多くが動作経済の原則を適用しているわけです。
いずれにしても、動作の分析は動作の最小単位でとらえ、これを究明して改善しようとするものです。そのためには、必要のない動作を削除していくことです。
動作経済の原則は、「身体部位の使用についての原則」「作業場所の配置についての原則」「設備・工具の設計についての原則」に関係するものを、それぞれ1つのグループとしてまとめられています。「表1 動作経済の基本原則」は、これらのおのおのの原則の要点を4つの基本原則(1:仕事をするときは両手を常に同時に使うこと、2:必要な基本動作の数を最少にすること、3:個々の動作の距離を最短にすること、4:動作を楽にすること)に、理解の一助としてまとめたものです。詳しくは、今回と次回の2回に分けて解説していきます。これらの項目を、毎日、1つずつでも現場をチェックして巡回するだけでも、たくさんの改善点を発見することができます。
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基本原則 | 仕事をするときには両手を常に同時に使うこと | 必要な基本動作の数を最小にすること | 個々の動作の距離を最短にすること | 動作を楽にすること |
改善発見のヒント | 待ち、釣り合い待ち、保持をなくす | (1)探す、選ぶ、持ち帰る、前置き、考える、をなくす (2)つかむ、組み立てる、を容易にする |
(1)腕を動かす距離を減らす (2)胴の動作を少なくする |
(1)動作困難度(Work-Factor)の重量や抵抗(W)、調節(S)、注意(P)、方向変更(U)、停止(D)の数を減らす (2)無理な姿勢をやめ、力を要する動作を減らす |
身体部位使用の原則 | (1)両手は各動作を同時に始めて同時に終わるようにする (2)両手の動作は同時に反対方向に、しかも対象的経路になるようにする |
(1)不必要な種類の動作を排除する (2)必要な動作の数を減らすこと、および2つ以上の動作の結合を考える |
(1)使用身体部位の範囲を最小にする (2)最適身体部位を使用する |
(1)制限のない基礎動作に近付ける (2)動作の方向は無理なく、その変換は円滑にする(3)慣性、重力、自然力などを利用する |
作業場所配置の原則 | (1)材料や工具は作業順序に合わせて置く (2)材料や工具は、作業しやすい状態に置く |
(1)作業場所は、支障のない限り狭くする (2)材料や工具はできるだけ近いところに置く |
作業点の高さを適当にする | |
設備・工具設計の原則 | (1)対象物の長時間の保持には、保持具を利用する (2)簡単な作業または力を要する作業には、足や脚を使う器具を利用する |
(1)材料や部品の取りやすい容器や器具を利用する (2)治具などの締め付けには、動作数の少ない機構を利用する(3)2つ以上の工具は、1つに結合する |
重力利用の補助装置やシューターを利用する | (1)一定の運動経路を規制するために治具やガイドを利用する (2)できるだけ動力工具を利用する |
表1 動作経済の基本原則 |
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