設計サバイバルの合言葉は「断面急変」だ! 〜先輩たちには内緒だぞ!〜甚さんの設計サバイバル大特訓(1)(3/3 ページ)

» 2009年10月08日 00時00分 公開
[國井良昌/國井技術士設計事務所(Active Design Office),@IT MONOist]
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 以下図3の左側がX方向スキャンです。X方向の右から左へ少しずつスキャンすると、長穴の長手方向を断面急変の要素として捉えることで「断面急変1」が現れます。

 次に、前ページ図2で示した長穴と端面の距離L1、およびL2が気になり、周辺が変形するのではと懸念が抽出できます。さらに、スキャンを進めると、「断面急変2」で曲げ加工ができるだろうかと懸念が抽出できます。

 そして図3の右側がY方向のスキャンです。Y方向の下から上へ少しずつスキャンすると、「断面急変3」で、「曲げ加工が可能だろうか」といった懸念が抽出できます。スキャンを進めると、断面急変の要素形状ではない長穴の円弧部に差し掛かります。

図3 板金部品の断面急変部をXY方向で探索スキャン

 最後に、折り曲げ部の丸穴に差し掛かると、前ページの図2で示した丸穴と端面の距離L5、L6、L7、L8が気になってきますが、それで「周辺が変形するのでは?」という懸念が抽出できます。

 なおL7とL8は、図示のないZ方向のスキャンが必要との考えもありますが、本例のような単純形状では省略しました。Z方向のスキャンに関しては、次回以降で説明します。

甚

どうだ! オレサマの説明はウザってぇかい? あん? 正直にいえ! 設計つうのはよぉ、いっつも『料理』に置き換えることがコツってぇもんよ! 手抜きは禁物だぁ!


良

ウザくないですよ? つまり、ともに『仕込みが重要!』ということですね!


甚

さすがじゃねぇかいっ。理解だけは早い。 気に入っちまったぜぃ! 今日の特訓が終わったら、ホッピーでも飲みに行くかぁ。


設計サバイバル・レシピ

設計プロセスは、料理に置き換えよ! 手抜きをすれば、客は来ない



 次に、「断面急変 3」の拡大図を図4の左側に示しました。

図4 断面急変3の拡大図

 このまま、何の検討もなく出図すれば、市場では図4の右側に示すクラック(割れやヒビ)が入り、強度を失った欠陥商品になる場合もあります。

 そして、図5は、断面急変で抽出された「折り曲げ部」の設計変更です。

図5 L字型板金部品の設計対策

 断面急変部の回避策は、「寸法:w≧2t+R」と「寸法:w≧2t」の製造ルールを確保して回避しました。この製造ルールに関しては、以後の回で解説します。

 板金形状が立体的で複雑な場合は、XYZの3方向をスキャンします。Z方向に関しては、次回の「樹脂部品の設計サバイバル術」で詳しく説明します。

厳しい製造業で生き抜くための術

良

甚さん! 設計サバイバル術とは、まとめると、どういうことになるのでしょう。


甚

設計サバイバル術とはなぁ、こういうことだ……。


 皆さんが船で遭難し、南国の無人島に裸でたどり着いたとしましょう。遭難して、まず初めに備えるべきは衣服や靴で外敵から身を保護することではないでしょうか。周辺の草や樹木をうまく利用して衣服や靴を製作するなどの「サバイバル術」を習得しておけば、遭難しても生き延びることができます。

 それと同じように、いきなり設計に携わる技術者は、社告やリコールの原因であるトラブルという“外敵”や、知らぬ間に高コストに陥る“ケガ”を最小限に留めるための「設計サバイバル術」が、図面を描く前に必要なのです。

 次に、決して食してはいけないもの、または、手にしてもいけないものがあります。それは、独特な模様や姿、鮮烈な色彩の動植物です。大柄のヘビは毒蛇が多いし、鮮やか過ぎる模様のキノコや木の実には毒があるといいます。つまり、異様な姿形の動植物を回避する。これは、最低限の「サバイバル知識」です。

 設計にも同じことがいえます。加工しにくい部品や、大変高価な部品になっても、ある程度は許される場合が多々あります。しかし、低品質や設計ミスの場合は、欠陥商品といわれるだけでなく、最悪、人命をも奪ってしまいます。それを容易に見極める手段が「断面急変部を回避すること」で、これが最低限の「設計サバイバル知識」なのです。

設計サバイバル・レシピ

最低限の設計サバイバル知識は、 「断面急変部を回避すること」



 今後は、図6に示すように、設計サバイバル術の「知識」「大道具」「小道具」を学んでいきます。そして、一気にベテラン技術者へと到達しましょう。ここでいう道具とはいったい何なのかは、今後のお楽しみ。

図6 この連載における「設計サバイバル術」の分類

設計サバイバル・レシピ

設計サバイバル術は、「知識」と「大道具」と「小道具」 に分類して理解せよ!



 第1回はいかがでしたか? まずは、「設計サバイバル術」「設計サバイバル知識」の単語だけを学んでいただきました。次に、その「術と知識」は、図面を出す前に必要なものであることを理解しました。

 次回から樹脂部品に関する「設計サバイバル術」と「設計サバイバル知識」を学習していきます。では次回もお楽しみに!

Profile

國井 良昌(くにい よしまさ)

技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会 幹事、埼玉県技術士会 幹事。日本設計工学会 会員。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。

1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。Webでは「システム工学設計法講座」を公開。著書に「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)がある。



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