生産管理にMRPやAPS(生産スケジューラ)を利用している企業は少なくない。MRPでは「標準リードタイム」を工程(工順)マスタに設定しなければならない。APSでも、部品購買や外注工程は固定リードタイムだ。では、この値はどう設定するべきだろうか?
ここでちょっと考えてほしい。よく大病院の混雑を揶揄(やゆ)して、「3時間待ち、3分間治療」といったりする。MRPに設定すべき標準リードタイムは、3時間だろうか、3分間だろうか? 待ち時間込みの期間か、正味の診察時間か。
答えは、待ち時間込みの「3時間」である。なぜなら、MRPの標準リードタイムとは、製造指示のリリースから完了までの製造リードタイム、すなわちその工程に渡してから、次の工程に移るまでに必要な期間の標準値だからだ。そして、大病院に限らず、リードタイムの大部分は「待ち時間」であることに気付いてほしい。
ちなみに3分間の方は、付加価値に貢献する正味作業時間と呼ぶ。そして、リードタイムと正味作業時間の比率の分析が、生産性向上や納期短縮の鍵となる。リードタイムから待ちを減らして、いかに正味作業時間に近づけるかが課題なのである。
ちなみに、筆者も理事を務めるNPO法人「ものづくりAPS推進機構」の理事長で、トヨタ自動車社友である黒岩惠氏によれば、製造リードタイムの中の付加価値時間比率は、
であるという。付加価値時間以外に、付加価値には結び付かないが必要な付随作業(例えば部品を手に持つ、次工程に渡す、など)がその数倍ある。しかし、あとの時間はムダ時間である。内訳は、ムダな運搬(レイアウトが悪い)、ムダな段取り替え(計画が悪い)、ムダな入出庫(ジャスト・イン・タイムに供給・消費すれば途中保管は不要)、ロット待ち、工程滞留待ちなどさまざまだ。
なお、ロット待ちというのは、100個の部品をまとめてロットで加工する場合、個別の部品は1分で加工が済むのに、ロット全体では100分かかって次工程に渡されるので、99分は実際には待ちになっていることを示す。ロット数が小さいほど、ロット待ち時間は少なくなる。
待ち時間を含む全体時間は、工場全体の負荷量そのほかさまざまな要因で変わり得る。そしてMRPの工程別標準リードタイムは、これらの幅のうち、ほぼ実現可能な安全側の値を設定せざるを得ない(もし平均値を採用したら、工程進ちょくが計画より遅れる確率が50%になってしまう)。これは購買の標準リードタイムなどについても同じだ。このために、MRPベースの生産計画ではどうしても全体リードタイムの長い計画になってしまう。APSでは工場内の滞留待ち時間は個別計算するため、製造に関しては多少アドバンテージがあるが、部品調達に関してはMRPと同じ状況に陥りがちである。
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