BioHEAとレーザー金属AMを組み合わせて、生体骨のような新材料を開発:医療機器ニュース
大阪大学は、バイオハイエントロピー合金とレーザー金属3Dプリンティングを組み合わせることで、強度と加工性に優れ、低弾性、生体親和性を兼ね備えた、生体骨のような新材料を開発した。人工関節や骨固定デバイスなどに適用できる。
大阪大学は2022年11月29日、BioHEA(バイオハイエントロピー合金)とレーザー金属3Dプリンティング(AM:アディティブマニュファクチャリング)を組み合わせることで、強度と加工性(延性)に優れ、低弾性、生体親和性を兼ね備えた、骨代替可能な新材料を開発したと発表した。大阪大学大学院工学研究科 教授の中野貴由氏らによる研究成果だ。
開発した新材料は、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、モリブデンの6元素から成る6元系BioHEAだ。これまでに開発されていた5元系BioHEAに、毒性の低いハフニウムを加えて混合エントロピーを増やした。これにより、マクロな相分離傾向が抑制される。
また、レーザー金属3Dプリンティングの超急冷現象により、本来は相分離傾向を示す合金が強制固溶(各成分が均一に固溶された状態)して単相化する。その結果、金属の格子にひずみが生じ、強度が大幅に上昇する。
強制固溶体化は、析出物のようなマクロレベルでの障害物が存在しないため、高い加工性も示す。レーザー金属AMプロセスの超急冷と固液界面での急峻な温度勾配が結晶方位の制御を可能にし、弾性率を低く抑える。
ビーム条件によって、単結晶だけでなく多結晶での結晶方位や組織の制御が可能で、力学特性をカスタムで制御できる。同大学によると、BioHEAにおいて多結晶から単結晶様組織までの結晶配向制御(組織制御)に成功したのは世界で初めてだ。
さらに、マクロ相分離(偏析)が強制固溶体化により抑制されることで、細胞の接着班が均一に存在し、生体親和性が向上した。既存の生体用合金SUS316L(ステンレス鋼)よりも高く、インプラントに用いられる純チタンに匹敵する生体親和性を示した。
開発した6元系BioHEAは、加工性を持ちつつ、同組成の鋳造HEAの約1.4倍となる1300MPa以上の強度を備えるため、人工関節や脊椎スペーサー、骨固定デバイスなどに適用できる。
骨代替バイオマテリアルに必要な高強度と低弾性、高強度と高加工性はトレードオフの関係にあり、両方を兼ね備える材料の開発は難しい。研究グループはこれまでに、ある程度の強度と生体親和性を示すBioHEAを開発し、レーザー金属AM法の急峻な温度勾配による超急冷凝固が素材開発に有効であることを発見していた。
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