CO2を99%以上の選択率でギ酸へ変換する「単原子触媒」を開発:研究開発の最前線

東北大学は、最大11重量%のルテニウム原子(Ru)を単原子状態で炭素材料中に固定化することで、CO2を99%以上の選択率でギ酸へ変換する「単原子触媒」を開発した。Ru以外の貴金属も高密度な単原子触媒を構築できる可能性がある。

» 2026年09月29日 11時00分 公開
[MONOist]

 東北大学は2026年9月7日、筑波大学、京都大学、アイントホーフェン工科大学、金沢大学および大阪大学の研究グループと共同で、ルテニウム(Ru)を含む前駆体の分子構造を精密に設計し、これを炭素化するボトムアップ合成法により、最大11重量%のRuを単原子状態で炭素材料中に固定化することに成功したと発表した。

 これにより得られたRu単原子触媒をCO2の水素化反応に適用し、99%以上の選択率でギ酸を生成するとともに、繰り返し使用してもRu原子の凝集が見られず、触媒性能が維持されることを実証した。この成果は、凝集しやすい貴金属を高密度に単原子状態で固定化する新しい材料設計指針を示すものだ。

希少な貴金属を原子レベルで有効利用する触媒材料の開発につながる

 単原子触媒は、触媒活性点となる金属において原子を1個ずつ担体上に分散/固定化

した触媒だ。理論上、全ての金属原子を触媒反応に利用できるため、貴金属使用量の削減と高い触媒性能を両立できる次世代触媒として注目されている。

 例えば、Ru単原子触媒は、水素化反応やアンモニア合成など幅広い触媒反応で優れた性能を示すことが知られている。一方、実用的な触媒として高い反応性能を発揮するためには、活性点となる単原子を高密度に固定化し、単位重量当たりの活性点数を増やすことが重要だ。

 しかしながら、Ruをはじめとする貴金属種は単原子状態で不安定で、触媒の調製時や反応条件下で容易に凝集するため、高密度な単原子触媒を合成することが課題となっていた。

 そこで今回の研究グループは、窒素原子を4つ備えた環状分子(ポルフィリン)の中心に金属原子が配位された化合物である金属ポルフィリン錯体などの前駆体分子結晶を直接炭素化する独自のボトムアップ合成法により、原子状分散した金属が炭素骨格中に規則的に固定化された「規則性炭素化物構造体(Ordered CarbonaceousFramework、OCF)」を開発してきた。

 これまで、ポルフィリン配位子を用いた前駆体設計では、主に鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの3d卑金属種を対象としてきた。一方で、Ruのような原子サイズの大きな貴金属種への展開は、ポルフィリンのような剛直な環状配位子では困難だった。

 この解決策として、同グループは、これまでポルフィリン系前駆体を中心に展開してきたOCF型単原子触媒の分子設計を拡張し、従来の剛直な環状配位子に代えて、柔軟な配位構造を形成できるターピリジル配位子に着目し、新しいRu錯体前駆体を設計/合成した。

(a)研究で前駆体として使用したRuターピリジル錯体。(b)ボトムアップ合成手法によりOCFが得られる様子。(c)得られたRu-OCFのHAADFSTEM像 (a)研究で前駆体として使用したRuターピリジル錯体。(b)ボトムアップ合成手法によりOCFが得られる様子。(c)得られたRu-OCFのHAADFSTEM像[クリックで拡大] 出所:東北大学

 この前駆体分子結晶を窒素雰囲気下、700℃以下で熱処理することで、Ru原子を含むOCF(Ru-OCF)へと変換することに成功した。

 加えて、高角度散乱暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)による観察から、Ruが粒子を形成せず、単原子状態で炭素骨格中に規則的に配列していることを確かめた。さらに、X線吸収微細構造(XAFS)解析などから、炭素化後も前駆体に由来するRuと窒素の配位構造が保たれ、Ru原子同士の結合が形成されていないことが示された。

 また、元素分析から、得られた材料は最大11重量%のRuを含むことが分かった。これまで報告されているRu単原子触媒では、Ru含有量が2重量%前後にとどまる例が多い中、同研究では最大11重量%という高い含有量を実現した。

 これらの結果から、前駆体分子の配位構造を拡張して設計することで、これまで適応

が困難であったRuについても、単原子状態と高い含有量を両立して炭素骨格中に固定化できることが明らかになった。

 得られた単原子Ru触媒をCO2水素化反応に適用したところ、99%を超える高い選択率でCO2をギ酸へと転換した。単原子触媒では、反応中の金属原子の凝集による性能低下が課題となる場合がある。しかし、同触媒では繰り返し使用しても触媒活性はほとんど低下せず、XAFS解析などから触媒反応後もRu原子の凝集は確認されなかった。

(a)Ru-OCFを用いた繰り返しCO2水素化反応試験による耐久性評価。(b)触媒反応前後のXAFS解析から得られたRu周辺の局所構造を示す動径構造関数 (a)Ru-OCFを用いた繰り返しCO2水素化反応試験による耐久性評価。(b)触媒反応前後のXAFS解析から得られたRu周辺の局所構造を示す動径構造関数[クリックで拡大] 出所:東北大学

 今回用いたターピリジル配位子は、Ruだけでなく、白金やパラジウム、イリジウムなどさまざまな貴金属と錯体を形成できる。そのため、同手法を応用することで、Ru以外の貴金属についても、高密度な単原子触媒を構築できる可能性がある。

 このような展開により、希少な貴金属を原子レベルで有効利用する触媒材料の開発につながることが期待される。今後は、今回実証したCO2資源化反応に加え、有機合成反応などさまざまな触媒反応への展開を目指す。

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