ソニーコンピュータサイエンス研究所は、VC Cell Therapyとの共同研究により、折り紙構造に着想を得た小型手術支援ロボット「Origanoid」を開発した。ウサギの動物モデルでの網膜下投与検証を実施し、高い成功率で液体投与を確認した。
ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下、ソニーCSL)は2026年8月25日、眼科領域/再生医療領域の研究開発を手掛けるビジョンケア子会社のVC Cell Therapyとの共同研究により、折り紙構造に着想を得た小型手術支援ロボット「Origanoid」を開発したと発表した。同ロボットを用いたウサギの動物モデルでの網膜下投与検証において、高い成功率で液体投与を確認したという。
折り紙構造に着想を得た小型手術支援ロボット「Origanoid」(左)と、動物モデルにおける網膜下投与の様子(右)。微細な針先(Needle)操作により、網膜下への液体投与の成功を示すブレブ(Bleb:液体注入により形成された膨らみ)が確認された[クリックで拡大] 出所:ソニーCSLOriganoidは、外形寸法160×50×50mm、重量17.9gと小型軽量でありながら、12μmの位置精度と最大550mNの出力を実現した。この550Nmという出力は、多くの網膜硝子体手術で求められる操作力に対応可能な値である。
滅菌可能なアーム部と再利用可能な駆動部を分離した上で、磁気カップリングによって接続する構造を採用しており、高い操作性と手術現場での運用性を両立している。停電時や術者が緊急と判断した際には、手術器具を約50ms以内に安全な位置へ自動退避させる機構も備える。アーム部にはプラスチック材料を用いた製造コストの低減につながる構造を取り入れており、再滅菌を必要としない単回使用(ディスポーザブル)機器への展開も可だ。
眼球モデルを用いたOriganoidの検証では、器具の装着や挿入、操作、抜去といった一連の手術動作が安定して実施できることを確認した。さらに、ウサギを用いた動物モデルにおいて網膜下投与を実施した結果、6眼中5眼で網膜下への液体投与が確認された。実際の手術環境に近い条件においても、同ロボットが微細な操作を支援できることが示されたといえる。
眼科手術や脳神経外科などの微細な操作を伴う手術では、人の手による生理的な震え(手ブレ)が課題となる。中でも、iPS細胞由来製品を用いた細胞治療や遺伝子治療において重要な手技となっている網膜下投与は、厚さが約200μ〜300μmとされる非常に薄く繊細な網膜の下に薬剤や細胞を届ける高度な手術手技であり数十μm単位で器具を制御する高い精度が求められる。
これまでの手術支援ロボットは高精度な操作を実現する一方で、金属製の複雑な構造による大型化や重量化が進んでおり、手術室のスペースや狭い術野への導入に課題があった。また、滅菌対応や安全機構など臨床上の要件も満たす必要があり、構造の簡素化や小型化には限界があった。
今回、折り紙構造に着想を得た設計を採用したOriganoidにより、精密な手術に求められる操作性と安全性に加え、現場での運用性を備える可能性が示された。今後は臨床応用に向けて、信頼性や耐久性の評価、より多様な手術条件での検証を進める方針である。
なお、今回の研究成果はソニーCSL 研究員の鈴木裕之氏らによるもので、学術誌「Nature」の姉妹誌に当たる国際科学誌「npj Robotics」に掲載された。
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