C-BOSSによる可視化は、営業部門の活動も変えようとしている。従来は直近2〜3カ月先の見通しを立てるのが精いっぱいで、工場の稼働不足を懸念して販売を抑えるといった後ろ向きなアクションが多かった。しかし、システムで年度末までの見通しがクリアになったことで、数カ月先の稼働余力を見越した前向きな議論が可能になったという。
「スーパーなどの小売業では、大体2カ月先を目安に特売計画を組みます。これまでは営業が3カ月前に商談し、社内で積み上げ計算をしてから生産の可否を判断していました。しかし今は、3〜4カ月先の段階で需要予測と工場の稼働状況を照らし合わせ、営業へ先回りして指示を出せます。小売業側が特売計画を組む前に提案できることで、双方にとってもメリットがあります」(大江氏)
こうしたシステム導入で困難なのは、新しい業務プロセスを現場に定着させることだ。カルビーでも、現場からの抵抗や戸惑いは少なからずあったと振り返る。
「こういったシステムは、経営層や意思決定を行う側が受益者になる一方で、データを入力し業務の標準化を行う作業負担者は別の部門になることも多いです。自分の課題を直接解決するツールではない現場の担当者に、『会社全体が良くなり、結果的に自分たちにもメリットがあるんだ』ということをいかに伝えていくか、その距離感を埋めることに難しさを感じました」(大江氏)
そこで、取り組みを正しく浸透させることを目的に、全国の工場や支店を回って100回以上の説明会を実施した。導入の目的を説きつつ意見を吸い上げ、各拠点へのアンバサダー配置、マニュアルの整備など、地道な活動を続けてきた。
現在、運用フェーズを担う荘司氏も、「システムを導入すれば、ボタン1つで完璧な答えが出てくる魔法のツールのように思われがちですが、実際には現場の人間が考えてプロセスを回さなければ結果は出ません。本格稼働を迎えた今も現場から使い勝手のフィードバックをもらっており、運用しながら継続的に改善をかけている段階です」と語る。
2026年7月の本格稼働は、あくまでS&OPシステムとしての、バージョン1.0のスタート地点にすぎない。現在はばれいしょを中心とした制約条件で運用しているが、今後は包材などの資材も制約条件として順次追加し、管理の精度を高めていく。そして、バージョン2.0以降では、さらなる機能の拡張を見据えているという。
「バージョン2.0以降では、現在の供給領域に加えて販売やマーケティング領域へも拡張し、より消費者に近いリテール領域のデータも取り込んだシミュレーションを目指します。また、現在は人が立てた計画に対してシステムが最適化の計算を行い、その結果を評価していますが、運用を通じて知見がたまれば、いずれはAIが自律的に最適なシナリオを提案してくれる『先生』のような活用も構想しています。ゆくゆくは国外領域への展開なども視野に入れています」(大江氏)
システム導入による定量的な効果は、本格稼働したばかりの現時点ではまだ算出できない。しかし、会社としては2030年3月期に向けて、段階的に確実な効果が表れると想定している。
「実運用を通じてツールに慣れてくれば、作戦検討の幅が広がり、実行できる施策も多くなっていきます。そうして使いこなすプロセスが進めば、成果も自ずと定量的に伸びていくはずです。今後バージョン2.0、3.0と歩みを進める中で、環境変化に強い事業運営を実現し、バリューチェーン全体の価値を最大化していきたいと考えています」(大江氏)
ばれいしょの制約や鮮度の追求に向き合いながら、デジタルによる全社最適化へと舵を切ったカルビー。同社が「2035ビジョン」で掲げる世界の“SNACKING COMPANY”への飛躍を、C-BOSSが新たな基盤として支えていく。
ヤマハ物流部が築いた、「Excel地獄」からの脱却と年間200時間削減の舞台裏
花王CLO「現場を知らずデータは生きない」 製配販の壁を壊し経営の武器へ
「マツダの本気」が日本製鉄を動かした、鋼板調達の新モデル
三菱食品と日清食品が物流DXで協業、AI活用でトラック台数約30%削減へ
自動車部品の輸送負担軽減へ、SUBARUと西濃運輸が愛知−群馬の混載輸送を開始
日野自動車はCLOを軸にしたロジスティクス戦略で「現場から経営を変える」
物流自動化は「入れて終わり」ではない、本社と現場の分断を越える“キーマン”とはCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
製造マネジメントの記事ランキング
コーナーリンク
よく読まれている編集記者コラム