カルビーが挑むジャガイモ収量の限界――自社開発AIでサプライチェーン最適化サプライチェーン改革(1/3 ページ)

「ポテトチップス」や「じゃがりこ」など、カルビーの主力商品に欠かせないばれいしょには、収穫量の限界がある。後手の意思決定から脱却すべく、同社はAIを活用した全社最適シミュレーター「C-BOSS」を自社開発。いかにして現場定着の壁を越え、データに基づく攻めのサプライチェーンを構築したのか。

» 2026年08月21日 06時00分 公開
[安藤照乃MONOist]

 カルビーは1949年の創立以来、「ポテトチップス」や「じゃがりこ」「かっぱえびせん」といった数多くのロングセラー商品を生み出し、日本のスナック菓子市場をけん引してきた。

 そんな同社が2026年7月、バリューチェーン全体を最適化し、利益を最大化するプランをシミュレーションするDXシステム「C-BOSS(シーボス=Calbee Business Optimization Simulation System)」を全部門での本格稼働させた。営業、生産、物流、調達など各部門に散在していたデータを横断的に統合し、サプライチェーン全体の収益性を可視化することで、全社最適な意思決定を目指すものだ。

 その開発の裏側には、主原料である「ばれいしょ(ジャガイモ)」の収量というカルビーならではの過酷な制約条件と、現場への地道な定着活動があった。本稿では、プロジェクトをけん引したDX・S&OP本部 企画部 部長の大江智之氏と、同本部 S&OP統括部 部長の荘司泰臣氏に話を聞いた。いかにして部門の壁を越え、全国で愛されるスナック菓子を効率的かつタイムリーに届ける仕組みを構築したのか。製造DXの最前線をひもとく。

カルビーの(左)大江智之氏、(右)荘司泰臣氏 カルビーの(左)大江智之氏、(右)荘司泰臣氏[クリックで拡大]

北海道産のばれいしょ収穫量には限りがある――製造や物流面でも制約

 サプライチェーンの最適化は多くの製造業にとって共通の課題だが、カルビーの事業環境には他業界と大きく異なる特徴がある。それが、主原料であるばれいしょの存在だ。

「当社が使用する国産ばれいしょのうち、約8割を北海道産が占めています。この北海道産は秋に収穫され、翌年の5月まで保管しながら使用します。その後、5月以降は九州産から始まり産地を順番に北上していき、8月下旬に再び北海道での収穫を迎える、という1年間のサイクルです。一部で輸入ばれいしょを使用することもありますが、基本的には『その年に収穫できた量』以上に商品を製造することはできません。大自然の恵みに依存する以上、近年の猛暑や日照不足といった気候変動の影響もダイレクトに受けてしまうのが実情です」(大江氏)

カルビーの主力商品 カルビーの主力商品[クリックで拡大] 出所:カルビーHPより

 原材料の調達制約に加えて、製造と物流の面でも課題はある。

 ポテトチップスなどのスナック菓子は、非常に「かさばる」商品だ。限られたトラックの積載スペースでいかに効率的に運ぶかが、企業の収益に直結する。さらに、商品の需要に対して工場の生産能力に余裕がなく、稼働率が常に上限に達している商品も他社に比べて多いという。特売向けやコンビニ向けなど、SKUは1000を超えている。

カルビーの大江智之氏 カルビーの大江智之氏

 また、商品ごとに製造可能な工場が限られているという拠点網の制約や、加工食品ならではの短い賞味期限も、日々のオペレーション難易度を押し上げている。

「先人たちから『作ってから何日までに店頭に並ばせる』という在庫水準についての厳しい教えも受け継いできました。一般的な企業では、欠品を防ぐために1〜1.5カ月程度の在庫を持つことも珍しくありません。しかしカルビーでは、製造から9日を過ぎた在庫が社内に残っていれば、それはもはや『業務の不良』と見なされます。なるべく新しいものをお客さまに届けるという考え方が、カルビーのDNAとしてベースにあります」(大江氏)

カルビーのバリューチェーンにおける課題 カルビーのバリューチェーンにおける課題[クリックで拡大] 出所:カルビー

まずは国内事業のオペレーション最適化、「自社開発」を決断

 これら複数の制約下で利益を出すパズルは年々難しさを増していたが、従来は情報を横断的かつタイムリーに把握する仕組みがなかった。

カルビーの荘司泰臣氏 カルビーの荘司泰臣氏

「以前は、現場から課題が出てきてから、各部門が個別に持ち寄ったデータをつなぎ合わせて対応するという状況でした。『ばれいしょが足りない』『物流が逼迫(ひっぱく)している』と言い始めてから、対策に乗り出す。各部門が立てたもくろみに対して、リアクションを取る(後手で対応する)ような意思決定の仕方が多かったのです」(荘司氏)

 数カ月先の見通しを立てて先回りして手を打つ、全社最適な仕組みを作らなければ、この先の環境変化を乗り切ることはできない。こうした危機感のもと、2023年にS&OP推進チームを立ち上げて、開発プロジェクトが動き出した。

 S&OPやサプライチェーン管理を支援するITツールは、国内外のベンダーから多数提供されている。カルビーも当初は一般的なパッケージソフトの導入を検討していたが、最終的に同社が選んだのは「自社開発」という道だった。

「パッケージツールでは、ばれいしょの収量や工場のキャパシティーといった当社固有の制約条件を標準機能で満たすことが難しく、一方で、グローバル展開などを想定したパッケージは、私たちがまず実現したい『国内事業のオペレーション最適化』に対して機能が過剰でした。そこで、私たちがやりたいことに対してストレートに実現できることを優先するために、自社開発を決断しました」(大江氏)

 各部門に点在していたデータを集約し、要件を固めるプロセスはカルビーのDX・S&OP本部が担い、システムの開発自体にはパートナー企業に発注の上で、共同で進めた形だ。

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