MRPも生産計画もAIに任せる時代へ、日本の製造ITはどう変わるべきか製造ITと「SaaSの死」の複雑な関係(後編)(1/2 ページ)

AIエージェントの普及が進む中で、製造業の業務を支えるITシステムの在り方も大きく変わろうとしている。「SaaSの死」といわれる中で、AIエージェントによるシステム環境の変化について解説する。後編では、具体的な製造ITシステムがAIによってどう変わるかを解説する。

» 2026年09月24日 08時00分 公開

 「SaaSの死」を切り口に、製造業務に関係の深い「製造IT」において、AI(人工知能)の浸透がどういう影響をもたらすのかを取り上げた本連載ですが、前編では「SaaSの死」の本当の意味と、AIが業務システムにもたらすものの全体像について解説しました。後編となる今回は、AIと製造業務の関係についてさらに具体的な形に掘り下げたいと思います。

1990年代からつながる製造ITとAIの関係性

 少し昔話にお付き合いください。筆者が「AI」という言葉を意識したのは1990年代後半のことです。

 当時、筆者はマレーシアで工場向けソフトウェアのインテグレーションを行うDATA COLLECTION SYSTEMSグループを起業したところでしたが、SCM(Supply Chain Management)ベンダーであるi2 Technologies(現在のBlue Yonder)のアライアンスパートナーとなっていました。

 i2 Technologiesは、テキサス・インスツルメンツでAIを研究していたSanjiv Sidhu(サンジブ・シドゥ)氏が創業した企業です。そのため、i2 TechnologiesのSCMソフトウェアには、AI的な要素が組み込まれていました。当時は、「AI」ではなくフルネームの「Artificial Intelligence(人工頭脳)」と呼ばれていましたが、リリースされた「RHYTHM」はAIロジックを組み込んだソフトウェアでした。

 ちなみにi2 Technologiesはその後、JDAソフトウェアに買収され、このJDAソフトウェアは後にBlue Yonderと社名変更し、2021年にパナソニック コネクトの100%子会社となっています。筆者が起業したDATA COLLECTION SYSTEMSも後に、現在のパナソニック コネクト(当時はパナソニックファクトリーソリューションズ)に買収されており、不思議な縁を感じます。

77%がAIを導入済みで、SCMでの活用期待が高い

photo Rootstockの調査「2nd Annual State of AI in Manufacturing Survey」 [クリックでWebサイトへ]

 さて、ここからが本題です。AIと製造業務の関係について考察する前に、まずは筆者の所属するRootstockが毎年実施している調査「2nd Annual State of AI in Manufacturing Survey」の結果を共有したいと思います。

 2025年に実施した調査では、米国、英国、カナダの製造業369社から回答を集め、AIの活用状況、優先投資事項などを聞きました。詳しく見ていくと、AIを巡る主要トレンドが浮き彫りになっています。以下に主要なトレンドについて紹介していきます。

  1. AI導入: 77%以上がAIソリューションを導入済みで前年比7ポイントアップ。活用領域は生産/製造管理(31%)、在庫管理(28%)、顧客サービス(28%)など多岐にわたる。日常業務においてAI活用が拡大している
  2. Copilot型への支持:人的リソースを代替する完全自律型AIではなく、人の役割を支援する「Copilot(副操縦士)」を好む傾向にある(53%)。これは、人による監督を維持しつつ労働生産性を高める協調型AIへ強い支持があるといえる(ここで示すCopilotはMicrosoftのAIを指すのではなく、副操縦士のように人の作業を支援するAIを指す)
  3. AI活用領域の拡大: SCM(49%)やビッグデータアナリティクス(43%)が今後のAI投資領域として浮上している。AIの持つ予測能力を活用した需給生産バランス最適化などが対象となる見込みだ
  4. AI導入におけるERPの役割:56%が既存ERPシステムのAI対応に不安を感じている。AI運用が可能なクラウドERP導入への期待が高まっている
  5. AI導入における障壁:社内専門知識の不足(45%)と既存システムとの統合の難しさ(44%)が主な課題として挙がっている。スキルギャップへの対応としては、研修やスキルアップ(60%)が主な手段となっている。一方で、最小限のトレーニングで運用が可能な直感的なAI技術への期待が高まっている(41%)

(※)調査結果レポートはこちらからダウンロード可能です。

 最新の調査結果では、前年に比べAIへの取り組みがさらに進んだ結果となっています。また、回答いただいた企業の82%が18カ月以内にAI予算を拡大する計画を持ち、そのうち、23%は26〜50%の大幅な予算増を見込んでいます。

 今回、筆者が興味を持った調査結果は、AI活用で重要な役割を果たすポイントの1つとしてクラウドERPが挙がってきたことです。前回の記事でも少し触れましたが、「SaaSの死」はSaaS型で提供されるソフトウェアそのものが使われなくなるというよりも、AI時代に対応できずに使われなくなることだと説明しました。ERPには業務の膨大な知見がデータとして蓄積されていますが、オンプレミスの場合、データをAIで学習できるように集めてくる作業に大きな負荷が生じます。そのため、AI時代に対応するためには、クラウドERPが不可欠だという認識が強まっているように感じます。

 グローバルでは既にクラウドERPが主流となっており、海外の製造業もクラウドERPを使っています。日本の製造業が競争すべき海外企業は、ERPやSCMに関するデータについて、ある意味で“AIレディ”になっているといえるのです。では、具体的なAI活用領域を見ていきましょう。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

特別協賛PR
スポンサーからのお知らせPR
Pickup ContentsPR
Special SitePR
あなたにおすすめの記事PR