前回、次世代ERPでは、AIエージェント運用によってユーザーエクスペリエンス(UX)が大きく変わり、従来のユーザーインタフェースの概念が無くなるとお伝えしました(AIエージェントに自然言語で聞くだけなので)。
これらに加えて、AIは従来のERP関連の機能にも、大きな変化をもたらすと見ています。
1つ目は、MRP(資材所要量計画、Material Requirements Planning)計算です。MRPはBOM(部品表、Bill of Materials)をはじめとした各種マスター情報、各種設定条件を基に計算されます。事前設定された条件に基づいた所要量計算となるのですが、単純に白黒がつかない状況なども生まれます。
例えば、2社購買のバランス調整です。価格差、直近の納期順守率などを加味した購買オーダー生成などは非常にバランスが難しくなります。また、3〜4年の周期で発生する電子部品や半導体の供給不足では、前倒しの発注が求められます。市場環境を勘案した所要量計算は、人では膨大な条件に頭を悩ませることになりますが、AIであれば、こうした複雑な条件を考慮した計算を効率化できます。
2つ目は、生産スケジューラーです。先述したi2 Technologiesの「Factory Planner」はAIによるスケジューリング機能を持った製品でした。その後、国内市場では、Asprova、FLEXSCHEといった専用スケジューラー製品が進化してきましたが、欧米市場ではスケジュール機能を持ったERPが主流になっています。AIが組み込まれたERPは、相反する複数条件のバランスを取りながら製造オーダーの割り付けを行う「高度な揺らぎ処理」が可能です。
3つ目はトレーサビリティーです。品質管理で難しいタスクの1つがトレーサビリティーの確保ではないでしょうか。市場クレームが発生した場合、速やかに包括的なトレーサビリティー情報が求められます。例えば、完成品ロットから製造ロット、そして原材料ロットへ向かって、下流から上流へさかのぼるトレーサビリティーが必要になります。また、品質問題の原因となった材料ロットを使用した他の製造ロットや完成品ロットへという上流から下流へのトレーサビリティーも必要となります。
重要なポイントはトレーサビリティー情報の網羅性と迅速性です。手作業では時間がかかり、情報の見落としも生まれるかもしれません。これでは生産停止が長期化し、最悪のケースでは市場からの退場勧告が出るかもしれません。AIを活用すれば、過去数年分のトレーサビリティー検索でも秒単位で完了します。
AIに期待されるもう一つの効果が、圧倒的な業務改善です。通常のERPを含むIT導入プロジェクトで必ず求められるのが、経営陣へのROI(投資効果)提示です。一般的には、生産性向上、業務効率化、データ精度向上などに関する「定性効果」を定量的な観点から仮に算出し“納得感を生み出す”ものが多かったのではないでしょうか。
しかし、AIがもたらす業務改善は場合によっては、それぞれの作業負荷を10分の1や100分の1にするほど圧倒的な「数字」を持っています。実際に、欧米では「AIリストラ」という言葉を聞く機会が増えています。これは、AIによって業務効率が向上した結果、人員削減(リストラ)が行われるという現象です。こうした文脈では、AIは業務管理を担当する「デジタルワーカー」と表現され、完全に人の代わりに業務を行う存在となっています。実際に、欧米企業のCEOに求められる新たな資質はデジタルワーカーを使いこなすこととも言われています。AIを有効活用することで「人員削減=経費削減=利益増加」を達成することが株主から求められるようになっているのです。
人事制度や関連法規の異なる日本で同様のアプローチは現実的な手段ではありませんが、欧米企業がAI活用によって企業力強化を進めている点は見過ごしてはいけません。グローバル市場での競争力を維持するため、日本企業は日本流のAI活用術を生み出すことが急務になっているはずです。
AIはこれからも、想像を超えるスピードで進化していきます。現時点では想像もつかないことがAIによって実現されるかもしれません。本連載は今回で終わりますが、今後もタイムリーに「AI×製造業」をテーマにしたコラムをお届けしていく予定ですので、別の機会を楽しみにお待ちいただければと思います。
栗田 巧(くりた たくみ)
Rootstock Japan株式会社代表取締役
経歴
1995年 マレーシアにてDATA COLLECTION SYSTEMSグループ起業。タイ、日本、中国に現地法人設立
製造業向けERP「ProductionMaster」とMES「InventoryMaster」リリース
2011年 アスプローバとの合弁会社Asprova Asia設立
2017年 DATA COLLECTION SYSTEMSグループをパナソニックグループに売却。パナソニックFSインテグレーションシステムズ株式会社 代表取締役就任
2020年 Rootstock Japan株式会社 代表取締役就任
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