日本の石油化学は、どう生き残るのかごりおの化学素材業界最前線レポート(3)(3/3 ページ)

» 2026年08月18日 06時00分 公開
[ごりおMONOist]
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設備と運営主体の集約

 1つ目の道筋として挙げられるのが、設備の集約です。これはすでに動き出しています。

 国内に12基あるエチレン設備のうち、4基は2030年ごろまでに停止する計画が公表されています。千葉では丸善石油化学と出光興産がそれぞれ設備を止め、川崎ではENEOSが2基のうち1基を止め、水島では旭化成と三菱ケミカルの合弁設備を止めて大阪へ地域をまたいで集約します。12基が8基まで減れば、残った設備の稼働率は採算の目安である90%を回復できるという試算もあります。

国内設備再編 国内設備再編[クリックで拡大] 出所:みずほ銀行

 ただ、設備の数だけでなく、運営主体の集約も重要になります。

 装置産業の設備は、止めるにも撤去するにも、お金と時間がかかります。誰がどの設備を持ち、どこを止め、どこに集約するのか。そこを決める主体がばらばらでは、今後のもう一段の調整は進みにくくなります。

 加えて投資の問題もあります。

 国内のエチレン設備には、稼働から半世紀を超えたものが多くあります。さらに脱炭素対応の費用もかかります。競争力を保つために設備を更新するとなると、巨額の投資が必要になり、これを1社が単独で背負うのは、なかなか現実的ではありません。

 ここに、分社化の狙いがあります。三井化学も三菱ケミカルグループも、石化事業を切り出して独立した会社にすれば、他社の事業と統合しやすくなるとしています。

 つまり分社化は撤退の準備ではなく、ばらばらだった運営主体を束ね直し、集約の判断を進めやすくするための器づくりだといえます。業界には、エチレン設備の運営主体は、将来的に3社程度に集約するのが望ましいという見方もあります。

 さらに国も後押しを始めています。岡山県倉敷市の水島から大阪府への集約や製造プロセスの転換には、投資212億円に対して104億円の補助が予定されています。設備の集約は、各社の経営判断から政策の対象へと段階が変わりつつあります。

素材産業の国際競争力強化に向けた産業政策 素材産業の国際競争力強化に向けた産業政策[クリックで拡大] 出所:経済産業省

エチレンの先で、何で稼ぐか

 2つ目の道筋は、誘導品の選別です。

 設備を集約して稼働率を立て直しても、それだけでは縮んでいく需要を追いかけることになりかねません。エチレンから作る誘導品をどの製品に活用し、どの製品を残すのか。この出口の設計が、再編のもう1つの主題になっています。

 すでに中国は基礎化学品にとどまらず、最終製品の一歩手前の中間材まで輸出を広げているとの指摘もあります。価格で代替されやすい製品を抱え続ければ、影響は川下まで及びかねません。

 従って、各社に求められる方向の1つが、高付加価値化です。日本として、簡単に代替されない高機能グレード、脱炭素に対応した原料転換、特殊用途での差別化が必要になります。

 どの製品なら代替されにくいのか、その見極めが各社に問われています。

集約の先にある原料転換

 3つ目の道筋は、原料の転換です。

 集約と選別を進めても、ナフサを分解して基礎化学品を作るという構造そのものは変わりません。脱炭素の要請と原料コストを踏まえれば、いずれナフサに代わる原料への転換が課題になります。

中国のエチレン生産能力 中国のエチレン生産能力[クリックで拡大] 出所:経済産業省

 旭化成、三菱ケミカル、三井化学の3社は、バイオエタノールから基礎化学品を製造する技術「Revolefin」の初期生産設備を水島に設け、2034年度に3社共同で商用生産を開始することを目指しています。

 住友化学もエタノールからプロピレンを作る技術のスケールアップを達成し、2030年代前半の事業化を目標に掲げました。税制面でも、要件を満たすグリーンケミカルについて、1トン当たり最大5万円の税額控除が設けられています。

 ただし、これらは時間軸が長く、生産の本格化は2030年以降と見られます。採算もこれからです。原料転換まで含めた投資を、赤字の石化事業が背負うのは現実的ではないため、まずは強靭な事業基盤の構築が求められます。

クラサス上場は、最初の試金石

 この3回の連載では、日本の製造業の土台としての、石油化学を見てきました。

 連載第1回では、ナフサの供給不安が包装材や溶剤の不足として、私たちの生活に波及する流れを解説しました。連載第2回では、その供給網を強くすることは効率と引き換えになる、という難しさを見ました。

 今回見てきたのは、より根本的に、供給網の一番元にある石油化学が事業として続けられるのか、という危機でした。

 この課題に対して、各社が進めているのが分社化です。分社化は、設備の集約を進めやすくし、成長に向けた投資を呼び込みやすくするための器だといえます。

国内のエチレン生産能力と生産量の見通し 国内のエチレン生産能力と生産量の見通し[クリックで拡大] 出所:みずほ銀行

 一方で、再編の器を作っただけでは十分ではありません。切り出された会社が、設備を適正化できるのか。規模ではなく付加価値で稼ぐ製品を選別できるのか。そして親会社を離れて、自分の判断で投資を回していけるのか。

 その最初の試金石が、9月29日に予定されているクラサスケミカルの上場です。上場したクラサスがどのようなビジョンを描くのか。続いて切り出される三井化学と三菱ケミカルグループの新会社が、どのような出口へ向かうのか。

 日本の石油化学が製造業の土台であり続けられるかどうかは、この数年の分社化の出口戦略で決まっていくと考えられます。

 この歴史的な転換点、引き続き注目していきたいですね。

⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者紹介

ごりお

化学メーカー勤務。SNSでは化学や素材業界の動向を中心に、化学メーカーの事業戦略、石油化学、半導体材料などについて情報発信している。


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